みちたろ

ペトラ・フォン・カントの苦い涙のみちたろのレビュー・感想・評価

4.8
初のライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品。

支配欲という名の愛、そして嫉妬に狂うペトラ。魔性の魅力を放つカーリン。言葉はなくとも全てが伝わってくるマリーヌ。人間の汚さと矛盾をある一室の会話劇で描ききってしまうファスビンダーの手腕に脱帽した。

ファスビンダーは男性であるが、男性性を批判しているようにも思えた。女性の心理や狂気的な部分を汲み取るのに長けているのがよく分かる。しかし単なる女同士の喧嘩にはとどまるはずもなく、大胆な衣装や構図で観客を飽きさせない。

特に「間」の演出は実に見事で、3人の感情が表情だけなく視線と仕草で表現されているのも、演劇的で巧みな演出だ。また、マリーヌがガラス越しのペトラに手を置くショットやブラインド越しの光の当て方には感嘆した。

映画自体オールタイム・ベスト級の傑作なのだが、やはりそれはハンナ・シグラの魅力と演技によるものであることを認めざるを得ないだろう。彼女とファスビンダーの代表作、『マリア・ブラウンの結婚』を観るのが楽しみで仕方ない。
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