菩薩

ペトラ・フォン・カントの苦い涙の菩薩のレビュー・感想・評価

4.0
男性に所有される事を拒否するがあまり女性を所有する願望に囚われているファッションデザイナーは、まさに人間をマネキンの様に、モデルを着せ替え人形の様に扱おうと躍起になっている様に見えるが、その実彼女自身が愛なる物により所有されており、その不自由さによって支配及び監禁状態にある様にも見える。母であり同時に娘でもある彼女はその狭間で行き場を無くし、遂には全てを投げ打ってしまう訳だが、彼女が自信を持って所有を宣言していた筈の言葉を持たぬ傍観者もやがて彼女を捨て、新たなる隷属、本人に取っての自由を求めてその部屋を出て行く。所有されていたかの様に見えた使用人は隷属をもって逆に所有していた事を証明し、貴女は何も所有出来ないのよとでも言わんばかりに彼女(デザイナー)が誕生祝いに貰った人形すらも持ち去っていく。誰も居なくなった部屋に一人残される女は静かな眠りにつく、その先に目覚めがあるかも分からず、辛うじて彼女を外の世界と繋げていた電話が鳴る保証もまるでない。その暗闇は孤独な死への入り口なのかもしれないが、それが解放で無いとも言い切れない。
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