お豆さん

それは息子だったのお豆さんのレビュー・感想・評価

それは息子だった(2012年製作の映画)
3.0
『グレート・ビューティー』で高貴なエレガンスを演じたトニ・セルヴィッロが、ナポリ歌謡曲に乗せてお送りする、荒々しいシチリアのダメ親父をめぐるドタバタ悲喜劇。彼の自由自在な変貌振りにイタリア演劇界の伝統を垣間見たような気がした。どんな役を演じようとも、脇下あたりから色気の滲み出る素晴らしい俳優。

さてシチリア・パレルモの異様な雰囲気を放つ巨大な公営住宅で繰り広げられるパゾリーニ的人間模様にナポリ風喜劇の要素とフェリーニ風ファンタジーが加わった、一口で言えば普通のイタリア映画笑。前半はストーリーなどあまり関係なく、ただただ金をめぐる人間の愚かさとトニ・セルヴィッロの怪演を楽しむためだけにあり、漸く最後の最後に予期された事件が起こった時、この父親の圧倒的権力によって支配されてきたシチリア人一家の様々な立場が一転し、動き出すあたりは非常に興味深い。そしてシチリア女の底知れぬ強さ。そんな家族に精神的に去勢されてしまった男の悲しい一生を思うと、身が縮まる。一見ファンタジーのようだけど、ありそうな話だから怖い。

2016. 38
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