ちろる

さらば箱舟のちろるのレビュー・感想・評価

さらば箱舟(1982年製作の映画)
3.7
かくして柱時計は砂浜に埋められて、百年村の時間は時任家本家だけのものとなる。

古い因襲にとらわれた沖縄の架空の村を舞台に描く寺山修司の遺作。

分家の捨吉(山崎)は村の風習に抗い、従姉妹であるスエと夫婦の契りを交わし、共に暮らしていた。
閉鎖的な村の中でとある禁じられた夫婦が争いながらさらに深みにハマっていく幻想奇譚。

シュルレアリスム満載のファンタジー要素の強い演出と、アットランダムに散りばめる寺山の詩の世界がある『書を捨てよ街へ出よう』、『田園に死す』とは異なり、良く言えばしっかりとした軸のある構成と、悪く言えばユーモアさを削ぎ落とした印象の作品となっている。
ラストの異文明の流入によって村が滅んでいく様子は、今村昌平監督の『神々の深き欲望』風味でもある。

私もそうだが、寺山修司の世界観が好きな人ならばきっと思うだろう、もっともっと頭おかしいやつちょうだい!何言ってるか分かんないやつちょうだい!ってなるかもしれないが決してこれも凡作というわけではない。
気のふれた捨吉の家は後半グロテスクに変容していく様子はゾッとするし、
寺山作品ではお馴染みの旅一座や壁掛け時計、本人の分身のような白塗り学ランの少年といったガジェットは本作にも登場してくる。
これらを挿入したのは、彼もまたこれが自分にとっての遺作になることを予想してたのかもしれない。
死生観を強く感じさせる演出もまた意味があってのことなのだろうか。
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