マヒロ

クスクス粒の秘密のマヒロのレビュー・感想・評価

クスクス粒の秘密(2007年製作の映画)
4.0
船大工のスリマーヌは、60歳を超えた頃に人員削減の名目でリストラに遭う。離婚した妻と家族とは交流はあるがやや疎遠で、現在の恋人とも老いた自分に負い目を感じてややギスギスしており、何事も上手くいかない状況。そんな中スリマーヌは一念発起し、廃船をリフォームした船上レストランを開業することを決め、彼を慕う恋人の娘・リムと共に行動を始める……というお話。

フランスに住う移民の家族を描いたお話。フランス人による移民への差別的な視点みたいなものもチラッと描写されるがそこは主題ではなくて、あくまでそこで生きる人たちのある出来事をフォーカスした内容になっている。監督自身もチュニジアからの移民二世とのことで、似た境遇の登場人物を描くにあたって熱が入ってる感じがする。

150分の長尺だけど、大体が会話で占められているのが特徴的。全く本筋に関係ない会話も含めてとにかく登場人物達が喋り通しで、顔のアップが多いこともあり喜怒哀楽の感情がダイレクトに伝わってくる。特に中盤の家族が食卓を囲う食事シーンでは、題名にもなっているクスクスを食べるところをアップで映してくるので、嫌な人は嫌な気がする。ただ、例えばシュバンクマイエルみたいに明らかに嫌悪感をもって食事を写し撮っているのではなく、生命の営みとしてエネルギッシュに描写しているので自分は不快にはならなかったかな。
エネルギッシュというと、後半でとある理由からリムがベリーダンスを踊ることになる場面があるんだけど、太っているとまではいかない絶妙にぽっちゃりした肉体でブルブル踊りまくる姿がなんだか分からないがものすごいインパクトで圧倒された。
今作で描かれているのは登場人物達が周囲の状況に関わらずパワフルに生きていく様で、それをありのまま美化も卑下もせず生々しく切り取ることで、全く住む環境の違う自分みたいな人間でも強く共感できる映画になっていたように思えた。

上手く噛み合っていなかったスリマーヌ周辺の人物達の関係に、ほんの少しだけでも光明が見えてくるような最終盤の展開は心温まるが、それらを締めるラストの暗転の唐突さにはちょっとびっくりしてしまった。なんであそこがラストショットなのか、どういう意図があったのかは読み取れなかった……。

(2019.238)
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