マヒロ

過去のない男のマヒロのレビュー・感想・評価

過去のない男(2002年製作の映画)
3.5
(2024.42)
夜行列車から降りて休憩中の男は、暴漢に襲われた上で荷物を奪われてしまう。病院に連れ込まれて何とか一命は取り留めた男だったが、暴行のダメージで全ての記憶を失い露頭に迷うことになってしまい、たまたま出会ったコンテナに暮らす家族の元に身を寄せることになる……というお話。

カウリスマキ作品の中でも結構ハードめな暴力描写から始まるのでギョッとさせられるが、それ以降はいつもの優しさに溢れた物語だった。自分の名前すら分からない男が出会う人々は、一見無愛想だが持たざる者である主人公に手を差し伸べてくれる人ばかりで、そんな人々の力を借りながら細々と生きていく様が描かれていく。
銀行強盗のおじさんですら、結構なトラブルを起こしたりするが最終的には仁義を重んじて主人公に借りを返そうとしたりと、カウリスマキ美学でもって動いている感じが気持ち良い。ボランティア団体で働き、主人公と何となく惹かれ合う女性を演じるのは安定のカティ・オウティネン。相手役が違うだけでいつも同じ人なんじゃないかというくらい似た役を演じ続けているが、この変わらなさがまた安心させられる。
空きコンテナを借りて住むことになる主人公は決して悠々自適とは言えないけど、捨てられたジュークボックスを修理して家で聞いてみたり、畑でじゃがいもを育ててみたりと、ちょっとした工夫で出来る楽しみを見つけているのが良かった。

どんな端役であろうとも印象に残る存在感があり、映画的なエゴが無く全ての人間に優しい目線をもったカウリスマキらしい温かい作品だった。
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