MasaichiYaguchi

偽りの人生のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

偽りの人生(2012年製作の映画)
2.9
この作品をクライムドラマと捉えるか、ヒューマンドラマと捉えるか、判断が難しい。
オープニングからラストまで、犯罪がストーリーに深い影を投げかけている。
そして主人公アグスティンの立場から考えると、「自分探し」、または「人生のやり直し」のドラマとも言えると思う。
アグスティンはブエノスアイレスで医師として働き、妻と裕福な生活を送っている。
子供はなかったが、男の赤ちゃんとの養子縁組も決まり、「家族の形」も出来上がりつつあるのに、そのことを重圧に感じ、日々虚無感に苛まれている。
そんな時、一卵性双生児の兄ペドロが不意に訪ねてくるが、彼は末期ガンに冒され、余命幾ばくもないことをアグスティンに告げる。
このペドロの訪問により、主人公は今までの裕福な生活を捨て、ペドロと人生を交換しようと決断する。
私には、このアグスティンの「決断」が、最後まで理解出来ず、共感出来なかった。
彼にとって、この裕福な生活が「自分の人生」として馴染めないものであったとしても、ブエノスアイレスでの日々や妻を簡単に捨て去れるものなのだろうか?
ペドロが生活していたブエノスアイレスから北へ30km離れたデルタ地帯であるティグレへ、彼に成り済ましてやって来たアグスティンを待ち構えていたのは、数奇な運命。
ティグレという村は、住民同士が顔見知りという閉ざされた狭い世界。
ペドロはその地で闇の犯罪に加担しており、彼に成り済ましている主人公は、必然的にその「闇の世界」に巻き込まれていく。
アグスティンは「やり直した人生」で、「最悪の出会い」もするが、彼にとって「最愛の人との出会い」もする。
私には、主人公のこの「人生の選択」がどうしても正しいとは思えない。
ただ、ラストシーンの悟りにも似た静かな主人公の表情を見ていると、彼にとっては「自分らしい」生き様だったのかもしれない。