「どうせ人間なんて、みんなどっかちょっとずつおかしいんだから」
雨の日だけに訪れる自分だけの特別な場所。
ある雨の日、いつものようにタカオが日本庭園を訪れると、そこには先客の姿があった。
チョコレートをおつまみにビールを飲む謎めいた年上の女性、ユキノは万葉集の短歌を詠んで去っていく。
「鳴る神の 少し響みて 差し曇り 雨も降らぬか 君を留めむ」
高校生のタカオは靴職人を目指しており、学校には自分の居場所を見つけられず、「ここは自分のいるべき場所ではない」という思いを抱いている。
一方ユキノもある事件が原因で心に深い傷を負い、自分の居場所を見失っていた。
二人は雨の日の日本庭園で逢瀬を重ねる内、やがてお互いに惹かれ合っていく。
「私ね、うまく歩けなくなっちゃったの。いつの間にか」と言うユキノのために、タカオは靴を作ることを決意する。
この時、ユキノの足のサイズをタカオが測るシーンが艶めかしい。
恐らくタカオにとって女性の足に触れるのは初めての経験だったはずだ。
万葉集の短歌で始まる今作は、「恋愛」という文化が輸入される前の「孤悲」の時代にタイムスリップしたような趣きがある。
雨の日を「待つ」二人をどこか羨ましく思った。
最後の自分の想いをぶつけ合うシーン、「あの場所で私、あなたに救われていたの」というユキノの言葉が胸に沁みる。