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刺青のakrutmのレビュー・感想・評価

刺青(1966年製作の映画)
3.7
谷崎潤一郎の同名小説を、増村保造監督、新藤兼人脚本で映画化した作品。とは言っても、『刺青』は短編小説でストーリー性もほとんどないので、本映画では『お艶殺し』という谷崎の別の小説に、『刺青』の彫師・清吉を混ぜたような話になっている。番頭と駆け落ちした女性・お艶が、芸者屋に売り飛ばされ、清吉に女郎蜘蛛の刺青を背中に掘られ、芸者として男たちを翻弄していく。

『お艶殺し』と『刺青』を一つの映画にするというのは想像以上に難しかったようで、『刺青』の淫靡な雰囲気をうまく出すことができず、「女郎蜘蛛の刺青」というアイテムは上手く使われている一方で、清吉がストーリーから浮いてしまっているのが気になる。(清吉同様に、清吉を演じた山本学も存在感が薄かった。)

それでもこの映画が成功している(と個人的に思える)のは、ひとえに、お艶を演じた若尾文子のおかげであろう。妖艶な悪女役がとても良く似合う。彼女に悪態をつかれたら、ゾクゾクしてしまう。谷崎が本作を観たら、どう感じたのであろうか。また、お艶と駆け落ちする番頭・新助を演じた、若き長谷川明男の演技も良い。真面目で臆病ながらも、お艶に溺れていく様子が上手く表現されていたと思う。地味だけれど、若尾文子を愛でるには良い映画であろう。
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