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親密さのEyesworthのレビュー・感想・評価

親密さ(2012年製作の映画)
5.0
【言葉のダイアグラム】

濱口竜介監督の2013年の長編作品。

〈あらすじ〉
共同で舞台の演出を手掛ける令子と良平は、私生活では恋人同士として同棲をしていた。新作の舞台「親密さ」の上演に向けて準備を進めるが、2人は少しずつすれ違い始める。取り巻く環境と抱える気持ちが変化していく中で、舞台は開演する…。

〈所感〉
これは、、邦画の最高峰ではないか。会話劇が好きなのでこういう贅沢な言葉の殴り合いをずっと求めていたのかもしれない。流石に4時間超の長編を自宅で見るのは集中力の限界で無理があった。確実に映画館で見るべき圧巻の作品だ。でも、途中でトイレに行けないのは辛いので、家でダラダラ見て、イマイチ分からない所は巻き戻したり一時停止したりして視聴したが正解だったかもしれない。映画館で見た方々尊敬します。
さて、この4時間超の作品を噛み砕いて語るなど今の私には到底できない芸当なので思ったことだけ身勝手に書こう。言葉には限界がある。この劇中劇という構造は、俳優陣の力量が物を言うと思うが、全員が凄まじかった。同じ熱量を皆で共有すること、なんとなく心地よくて、時に嫌でたまらない、まさに「親密さ」を見た気がする。自分はこの輪(サークル)に入れてない?同じ空気の中にハマりきれてない?と円の外からそんな熱狂や距離感を羨ましく眺めてきた人生だったから、彼らが遠い世界の住人のように思えた。でも、実際人間なんて大体似たようなもので、いくつかの形容詞で割り切れるほど浅く広いよね。良平の率直すぎる急行みたいな言葉、玲子の回りくどい各駅みたいな言葉、誰しもが生きる手段として用いる貨幣のような言葉だけで、成り立つ経済圏がとても心地よかった。私はあなたに今必要な言葉を要求する。でも肉体と一緒で人間関係にゼロ距離なんてなくて、言葉だってソーシャルディスタンスがある。嫌でも配慮しなければならない。そういう無理が付きまとう。基本的に人と人が完全に分かり合うのは無理である。戦争も平和も実現不可能な無理の産物だ。そんな無理の最中に有理が生じた時、私はあなたに出会えてよかったと思うだろうし、あなたも同じ気持ちなのかもしれない。その瞬間を求めている。違う車両に乗っている、同じ人と共に駆け合うその時を待っている。ひと時の並走。シンクロニシティ。
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