168万部を越えたベストセラー詩集「くじけないで」は未読なので、本作で初めて90歳を過ぎて詩人となった柴田トヨさんの人となりに触れた。
私も趣味で毎日と言っていい程、映画をはじめとしたレビューを書いているが、90歳を過ぎても尚、物を書くというモチベーションや感性、その持続力にはただ敬服するばかりだ。
物を書くということは自分の日常や身の回りのこと、時によっては過去に遡って自分を見詰め直し、それを拠り所に創作することだと思う。
映画で描かれる柴田トヨさんの詩の世界と絡めた明治から平成に至る彼女の半生は決して平坦ではない。
米問屋の生家が傾いて幼くして奉公に出されたり、父の借金の肩代わりに嫁いだ結婚の破綻、再婚して生まれた甘ったれで短気、いつまでも大人になれない息子等、傍から見れば山あり谷ありの彼女の人生は幸薄く感じるかもしれない。
だけど人の幸せは様々で杓子定規に定義出来ないと思う。
柴田トヨさんの半生を見ていると、苦しい時も悲しい時も逃げずに精一杯生き、家族に沢山の愛を注いで送る日々の幸せを改めて感ぜずにはいられない。
この作品は数々の映画で慈愛溢れる母を演じてきた八千草薫さんの集大成だと思う。
その集大成を、ギャンブル好きで定職に就けない息子・健一役の武田鉄矢さんと、しっかり者のその妻・静子役の伊藤蘭さんの二人がドラマを盛り立てるように演じている。
ただトヨさんのエピソードだけでなく彼女に関わる人々のエピソードまで盛り込んでしまった為、詰め込み過ぎてやや冗長となってしまったのが残念だ。
だが、本作から普通の人による普通の幸せが如何に尊いものであるかは伝わって来た。
この作品の鑑賞を契機にトヨさんの詩集を読んでみたいと思います。