むーしゅ

トランス・ワールドのむーしゅのレビュー・感想・評価

トランス・ワールド(2011年製作の映画)
2.9
 Clint Eastwoodの息子Scott EastwoodとSam Warterstonの娘Katherine Waterstonが共演している作品。もうひとりの出演者Sara PaxtonもBill Paxtonの遠縁だそうで、ある意味有名な役者が沢山出ている作品です。ちなみにShaun Siposは、、いないみたいです。

 車のトラブルで立ち往生したサマンサは森の中に小屋を見つけ、同じく避難していたトムに出会う。2人は協力しあうことにするが、そこに3人目の遭難者ジョディが現れる・・・という話。海外版と日本版のポスターが違うようで、海外版ではB級感がすごいですが、日本版はちょっと面白そうな雰囲気です。

 映画の内容はいたって単純で「オリエント急行殺人事件」などでもお馴染みのミッシング・リンクを探っていく映画です。ただ推理ものでは無いので話が進むにつれて明らかになっていくという作風で、短い時間の中ですが場面と登場人物の数を絞ることで上手くまとめています。主要登場人物四人が男女二人づつかつタイプが違うところもバランスがとれていて見やすいですね。またミッシング・リンクのヒントが紐解けていくタイミングが絶妙で、中弛みしそうになると新たな謎が解けるというように、物語から離れにくい距離を保ち続けます。しかし多くの謎を同時に扱えないことから、後半で明らかになる要素の中には、いやいやこれは最初にわかるでしょ?というようなものもありました。序盤から伏線を仕込みつつ、「なぜ今まで気づかなかったのか」くらいの台詞を挟むか、あるいは明らかになる順番を再構成した方が良さそうです。

 さてこの作品で気になるのは、この世界に彼らがわざわざ集められたのは誰の意思だったのか、ということです。そしてこの問いの答えは恐らくジョディなのだと思います。なぜなら作品の中でジョディのみこの世界に迷いこむ前後の状況が描かれており、物語はジョディの軸で始まりジョディの軸で終わると言えるからです。ではなぜ彼女がこの世界に彼らを呼び寄せたのかと言うと、今の生活を変えたかったからだと思います。実際ハンスとサマンサは彼らがいつか死ぬときにその後周囲が悲惨な人生になるとしても彼らは気づけない立場であり、トムはより恵まれた人生の可能性があったとしても本人が現状に強い不満を持っているわけではなく、明確な"たられば願望"を持っているのはジョディだけです。彼女だけは唯一自分が不幸だと認識しており、この点がある意味面白いところです。ジョディはキャラクターとしての役割を考えると中心に据えるというよりかき混ぜる役回りですし、本作の設定でいえばミッシング・リンクの端に位置する人物の方が扱いやすいはずです。しかしあえてジョディを中心に据えておくことで、主人公ではないのに妙に気になるポジションになっています。本来ならジョディは主人公にもなれる設定を持っていると理解すると、後半で彼女の身に起きたことも現状を変える方法として彼女なりの潜在意識の現れなのかなと感じてしまいます。

 作品全体に関しては正直可もなく不可もなくでした。伏線をあまりはらずに進んでいくので、物語上には大きな驚きもなく一直線。脚本の長さ、場面設定、内容、登場人物数などどれをとっても、舞台向きだなと感じる作品でした。しかし舞台にしては会話が全く面白く無いのでもう少し台詞を練って欲しいところです。低予算なりの工夫は感じますが、これはやられたなというほどではないというのが正直な印象です。ちなみに邦題は「トランス・ワールド」というまたなんだかよくわからないことになっていますが、原題"Enter nowhere"のどこでもない世界に入るというのがイメージにあっていて良いですね。頑張れ邦題。
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