むーしゅ

1917 命をかけた伝令のむーしゅのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
3.5
 先日の第92回アカデミー賞において、撮影賞、視覚効果賞、録音賞の3冠を達成した話題作ということで鑑賞。作品賞、監督賞、脚本賞などにもノミネートしていたのに結果としてストーリーそっちのけで、視覚聴覚関係の受賞に集中しているところが面白いですね。

 第一次世界大戦の真っ最中である1917年。西部戦線ではアルベリッヒ作戦によるドイツ軍の後退が始まり、それを罠だと知らないイギリス軍は追撃に乗り出そうとしていた。 航空偵察によりその事実を把握したエリンモア将軍は通信が途絶えた最前線にその事実を伝えるため、若い兵士のブレイクとスコフィールドへ伝令としての任務を託すのだが・・・という話。
 主演のGeorge MacKayにすごく見覚えがあったのですが「はじまりへの旅」かと途中で納得。これ最後まで見るともう少し年上の役者を使ったほうがよかったのではないかという気がします。

 まず語らないといけないのは、ワンカット撮影風な仕上がりであることですね。ワンカットといえば日本では「カメラを止めるな!」があったり、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」があったり最近は色々出てきて面白いですね。とはいえ本作はまぁ言うまでもないですが、当然ワンカットで撮影しておらず、VFXや撮影技術により限りなくワンカット風につなぎ続けているというわけです。ただこれまでのワンカットものは空間制限をかけるために室内シーンを中心としたものが多かった中、オープンスペースで試みているところが本作の面白いところですね。もちろん本当に屋外のみでやってみると相当つらいものがあるので、そこは「塹壕」という特殊な状況を利用することで視野制限をかけており、この辺りがこの映画のうまさです。この脚本をこの撮影方法で撮ってみようと思った実験的試みが評価されているポイントと言えるでしょう。

 そこで本題はこの映画が作品として面白かったのかということなんですね。まず臨場感という点においては、そこそこなんですけどまぁ正直「プライベート・ライアン」なんですよ。この手の戦場を駆け抜ける感は正直見たことあるんですよね、これまでにも。また「サウルの息子」を見た方は、背中越しのせいで全然見えないながらも音だけで聞かされる死体処理の臨場感からくる恐怖に比べると、正直何ともないと思うのではないでしょうか。アカデミー賞の3冠取ったにしては緩くないですかい?という感じ。同系統の作品「ダンケルク」のスタッフから編集のLee Smith氏を連れてきちゃってますし、素晴らしいことには変わらないですが期待は超えないせいで、まぁまぁという感想に落ち着いてしまいます。
 また、ストーリーに関してはミルクのこれ見よがしな伏線や最後の木陰のシーン等、なぜか美談にしたがる傾向が感じられ、感動系も一応狙いにいくことに少し違和感がありました。戦争映画って虚無でも良いけどねって。なんだか求めていない要素がちらほら存在し、それにより伝令兵の頑張りすら作られたものに見えてくるというもったいなさを生んでいます。赤ちゃんとのシーンでせっかく出てきた詩人Edward Learの「ジャンブリーズ」もチョイスの理由がいまいちわからない・・・。そういうくどい要素を抜いて100分くらいの作品にしたほうがシャープに決まるのではないでしょうか。

 ということでこの映画は結局、今の映画技術ってすごいな、で良いんでしょうね。技術を見せたいがために作られたといっても過言じゃない。これまでのワンショット映画に比べて主人公の周辺をカメラが回ることが多い点も含め、どや!って言われてる感覚ですね、もはや。この映画で感じる独特の感覚は何なんだろうと考えると、ゲームっぽいんですよね。視点を動かしながらオープンワールドの戦場を駆け抜けるシューティングゲームをやっているようなそんな感覚です。そういうところがとても現代的な気がして、映画も新しい方向へまた領土を拡大したなぁと感じた作品でした。
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