阪本嘉一好子

ザ・ビリーヴァーの阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

ザ・ビリーヴァー(2001年製作の映画)
5.0
衝撃的な映画で観賞後、私自身気持ちの整理がとても必要だった。主人公ダニエル(ライアン ゴズリング)がなぜ、自分の育った宗教を信じているユダヤ人を嫌いになったのか。それも、ユダヤ教に生まれ育ち、『バルミツワー』も受けているし(記録に残っている)、家族もユダヤ人だし、ニューヨークのヤシバ(ユダヤ教の学校)に通っていたし。ユダヤ教の環境に浸っているわけだが、これらは全て表面のことで、彼の内面に焦点を当てないと。勤勉で早期に自分の意見を確立するが、自分が認められないから、自分が確立できなく心の成長が不安定に感じる。認められないことに輪をかけてこの学校で排斥やユダヤ思想を冒涜するものだと先生や同級生に思われる。
論理的思考もあり、それも、ユニークな批判論理で、国粋思想(反ナチ運動)のリーダーになれる素質があると。でも、その後も心から、ユダヤ宗教思想を嫌いになれず、本屋に足を運んだり、超正統派のユダヤ人の家族の後を追い、子供の時や子供をナチに殺された人の話を思い浮かべているようだ。選民と言われ、ニューヨークの各界を仕切っているユダヤ人のなかで彼の父親は存在感のないユダヤ人に見える。自分をユダヤ人と人に言わないで成功(?)を収めていているユダヤ人も数いるようだ。

その反面とトーラを家に持って帰ってまで大切に修復する彼、愛と憎しみの間の中で心が動いている彼の気持ちがわかるが、最後に、自分共々、シナゴークを破壊する。ちょっとだけど、最後は三島由紀夫の金閣寺の僧の真理と被る。ダニエルは極端に言って、例えば、昼はユダヤ人の世界、夜はネオナチの世界と動いていたら、体は動けても心がついていけない状態になると思う。愛することと憎むこと、正反対の心理や共存をコントロールできず、心の置き場所や落ち着ける場所がないと思う。シナゴークに行けば、自分がここに属さないのがよくわかるし、ネオナチの団体に言ってもそこに属してないのが見える。それがこの映画を通してよく見える。

最初、ラテンのガイウスカトゥルスの言葉で始まる。これが全てを象徴している。
『憎しみと愛情この二つの存在があることを誰が私に教えてくれるか?』

私にとってのベストシーンはネオナチのグループとシナゴークの内部、祭殿を破壊し、ダニエルは、それはこうするなああするなといい、自分でトーラの巻物を持って帰り修復するとこ。少しずつ大切に扱って元の形にしていくダニエル。一見、二重人格で矛盾の塊のように思えるが、、タッリーを腹巻のように腹に巻き、その上にTシャツを着て、『ナチスの敬礼』をするシーンに心を打たれた。なぜって、ダニエルの指を見てほしい。敬礼のようにまっすくに伸びていないんだよ。ここの指を真っ直ぐ伸ばせない矛盾した彼がいる。ここが、彼の心の動きを顕著に見せていると思う。泣けるね。

注:私はユダヤ教でないし詳しく知らないので、文中が無礼になっているかもしれないが、その気持ちは全くない。そう感じたらごめんなさい。強烈な映画で、ネオナチや極右の真理状態を学びたくて、こういう映画を観ているが、これは、そのベストに入る映画だと個人的に思う。ネオナチのこの青年ダニエルの暴力破壊行為のなかに潜んでいる『憎愛』が、ネオナチに入っていく一つの動機になり、動機は多種多様なんだと感じさせる。しかし、このダニエルの記事をニューヨークタイムズに載せた記者は?これが大きな理由でダニエルは自殺したのだから。
蛇足それに、この十九歳で、当時まだ無名だったというこの俳優、『ライアン ゴスリング』の愛と憎しみの表情や行動が上手だ。監督は彼のことを称賛していたが、なぜ、この作品を作ったか話した。現実に起きたことに脚色を加えて作ったらしい。こんなことを言っては誠に失礼だが、この監督の話は表面的なことばかりで、私の心の蟠りを解消するような話題ではなかった。ライアンの映画はハーフネルソンで2作目を観たが、この映画の方が演技が上手だ。
ハーフネルソンのレビュー
https://filmarks.com/movies/56825/reviews/99772628