ニューランド

ゲームの規則のニューランドのレビュー・感想・評価

ゲームの規則(1939年製作の映画)
5.0
☑️『ゲームの規則』(5.0p)及び『大いなる幻影』(4.8p)▶️▶️

海外ではヨーロッパ映画史上、最も高名とされている本作もわが国では必ずしも人気はそう高くない。公開が限定されてて、1950年代迄は批評家の一部が税関?で観たくらいで、飯島正さんの誉め言葉しか思い浮かばない。日仏交換祭で寄贈されたプリントでFCで一般人でも60年代以降観れるようになるが、日本語字幕が入ったのは70年代以降か。自在・柔軟・複雑も透徹して完全な様式とバランスの持続、立体型と自然の世界を透かし動かし得るものの可視化・意識の外観化、瞬間毎の澄みきった美の張りつめと突き刺し・その直感鋭くまた自然無理なく広い批評性、社会的存在としての人間の・美徳と全てを呑み尽くす混乱と最深部の表出、行き当たりばったりの予測不能の即興性の呼吸、時代・社会の暗雲と日常の親密さにフィットし続けて流れる空気、総体として例えようのない生々しさと昇華されすべてと同化する真の美の共存、商業映画とアヴァンギャルドの境界すらそこにはない、それらがすがたを現したのだ、満を持してというよりたいして話題にもならずわりとあっさりと、が、私たちは熱狂した、これぞ、映画史上の最高傑作だと。しかし、90分のそれに対し、106分の近原版の優位を謳って一般の劇場で公開された1980年代流通版はとにかく画質が悪く、近パンフォーカス内の群像、縦横無尽のルール違反のカメラ移動の粋もたまったもんじゃない。これしか観ていなくて本作を低評価に留めている人もいる。90年代に入ってそれよりはジェネレーションがはっきり若いプリントが流通するようになった。
各シークェンスは、全て独立した美術品の如くに素晴らしく、特に残酷でもありラストの人間の死を予言する狩猟から、その夜の演し物の続くステージの表裏の連なりは、息をのむ、いや、呑み込まれてしまう、映画史上最も世界をうねらし揺さぶった驚異の宇宙が鋭く豊かに現出してくる部分である。息づき清新で如何様にも方向が変わりうる(逆襲もあり得る)自然への人間のゲームと本能を充たす侵食の、構図・細部・スピード・移動・視界のシャープで正確、怖く美しい、終るを知らないかのようなめまぐるしい勢い、そして不意に断ち切らるモンタージュの圧巻。そして、そこに自由に居合わせたかのようなフォローや舐めまわしや吸い付きの息の長い迫真かつワクワクさせるフレーム移動・パンの天才、人間たちの位置や追っかけを実際以上に捉えきった(縦・他の)構図、90゚・180゚をはじめ真の立体・動力を示すポジション推移を示し続けてく(スパンは長い)デクパージュ、カメラのショット内をベースとした組み立てのもたらす、ショウ表現ー恋の狂気ー誤った連帯が心の闇や異物排除にいたる雪ダルマ式的巨大化・中心喪失の、驚異。そこで、人間たちは、虚飾を剥ぎ取られ、純粋・単純に立ち返れば立ち返るほど、自分と向合い誠実になればなるほど、いま、格闘し排除・和解しつつ追い続け・また応えんとしてる最大の目的の恋の本当の相手が、自分は誰を求めているのかわからなくなってくる、混乱してくる。触れることのなかったタブー的自己の深奥と、人格・社会の有用な要素を持つ外形が、剥き出しになり、対峙があらわになると同時にいびつに浸食しあってゆく。作家・登場人物に一切の悪意はない。
急な母の葬儀から戻って着いた東京でたまたまこれをやっていた。何十回目かわからないが、そこに吸い込まれ、私は知らない間に再生していた。地方生まれで、永くルノワールは、愛読してた飯島正さんの連載『ヌーヴェル・ヴァーグの映画体系』で、史上最大の映画批評家A・バザンが最も崇めてる作家として、どんなものなのか期待が一方的に募ってくだけの存在だった(『大いなる幻影』だけは観れた筈だが、NV派の認めてない作品だったのでーしかし、後に初公開版→復元版→オリジナル版と観ると、史上稀なる~唯一かも?、リアリズムと様式美の溶け合ったこれ以上ない信じ難い完全・完璧な映画だったー『~幻影』『ゲーム~』共、最も複雑なカメラワークは、独仏将校らor貴族別荘使用人らの長めテーブルを囲んでの多数人の食事シーンでなされてるが、高さ・奥行を仕切った空間内の重力を探り並列化を詰めてく節度と無限の手応え・落ち着いた美学の前者に対し、後者は階段・奥スペースへまで動き可能として伸び続ける浮遊夢幻性を保持し続けている)。地方でもTVで戦後の作品が放映され(特にそれまでのベルイマン・フェリーニといった神的存在を一蹴したNHK教育『河』放映)、東京でFCで絶頂期の作品も観れるようになると、バザンのいうとおりな芸術=大衆作品表現の頂点であるとの認識・悦びであると共に、世界と向き合い生きてく上での母的大地・生地と並ぶわが土壌となっていった。
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