安駒

ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンの安駒のネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

シャンタルアケルマンの映画を初めて見た。冷徹さと愛おしさが同居するような眼差しに震えた。

どんな映画か前情報を得ないまま見るのが1番いいと思う。

(ネタバレ)
アパートメントの小さなキッチン。マダムはじゃがいもを湯掻いている。窓辺に狭しと並べてる調味料。マッチでコンロをつける。一連の地味な生活の所作や道具が70年代の一般的な「ごく普通の」フランスのアパート暮らし主婦のそれなんだろうなと画面に見入ってしまう。

ベルがなり、玄関に行くと白髪の老人がやって来て、2人で奥の部屋へ入る。果て、知り合いかな?と思っているとジャンプカットで老人が去る場面に。老人はマダムにお金を渡して帰る。また来週、と。。


3時間の大作であるがほとんどのシーンがのマダムのアパートメントでヒールをコツコツとさせながら(コレがミソ)
生活をしているのをただ真正面から描いていくのみである。セリフもほとんどない。
と聞くと途方もない退屈な映画を想像してしまうが、
物語で映画を描かず、
その生活の細やかなミニマリズムを積み重ねることによって主題が浮かび上がってくるという仕掛けになっている。
主演のデルフィーヌセリッグの美しさと佇まいがいい感じの熟女で、絶妙な退屈と色気を醸し出す。この終わりなき人生、そして生活がまるで労働であるかのように鬱々と描れていくこの画面から、なんともしれない恐ろしさとエロスを感じてしまう。この日常には笑いも憎しみもない。愛想もなく母の過去を詰ってくる息子も憎たらしい。
生活を丁寧に営めば営むほど全てのささいな綻びが絶望へのスイッチになっていくようだ。そして唐突に噴出してしまう破滅。
この淡々とした3時間そのものが観客を絶望にたたき落とす壮大な仕掛けだった。
安駒

安駒