トム

ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのトムのレビュー・感想・評価

4.8
3時間かけて、3日間の単調で淡々と流れてく日常を観る
ジャンヌのルーティンワークにはどことなく神経質的な、生真面目すぎる印象があって
怠惰をやりがちな身からすると、もう少し肩の力抜いても良いんじゃない?とすら思うんだけど、でもこの習慣を重んじつつ、人との関わりを厭わない姿が成熟した女性への憧れにも似た気持ちになる
それと同時に、この種の完璧さはある種の人を息苦しくさせる、そういう不穏さが薄ら漂う1日目
2日目夜から3日目でこの不穏さは重く強くなる
音楽が無く生活音だけで、会話もほぼ無い
彼女の表情や動きにもあまり感情を感じられない分、靴を磨いて強く椅子に置くシーン、カフェオレを捨てるシーン、音で分かる少しの感情の揺らぎが大事件のように感じて、ずっとソワソワしてしまう

彼女が3日間通して幸せそうな感情を表してくれるのは息子が帰ってきたあの一瞬だけだったのに気づいて、全編観終わってズンと来た

単調なルーティンワークで、キューライスさんの「失われた朝食」(YouTubeにあります)を思い出さざるを得なかったんだけど、強迫性障害のような側面がある気がする
毎日の規則正しい自由な、でも張り詰められた生活に、一滴垂らされる不快で全ての歯車が狂っていく

なんて上質な作品を観てしまったんだろう
今年No. 1



雑メモ↓
ちなみに正直これが男性監督だったら、ちょっと変わってたかもしれない
あんまりそういう見方は良くないと思って自制してたけど、時代感も相まってしまって途中まで本当にニッチな熟女好きの映画説が濃厚で、あっ違う違う女性監督女性監督って言い聞かせてた
あと息子が帰ってきてご飯食べ終えて学校が〜のセリフが入るまで本気で息子を旦那だと思い込んでた
あーいう子供っぽいオジおるよ
キツイ作品ではあるけど飽きずに観続けられたのは生活音がずっと小気味良いのも大きかった
もはや生活音ASMR
テキパキ無駄なく家事をする女性を観るのって素敵でとても好き
だからこそ狂い始めた時にウッとなる
多分しばらく家事が楽しい
fanというよりinteresting で
自分にも神経質な部分が僅かながらあるので、こんなに完成された家や習慣から、イレギュラーが起こりかねない外に出るの正直めっちゃ怖くて、ただの散歩がすごく怖かった
過敏すぎるなと思ったけど、勘違いではなかったのかも
この場合むしろ完成された家の中にイレギュラーが入り込んでしまってるわけだけど
2日目の彼が彼女の小さなネジを抜き取ってしまったんかな
トム

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