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ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地、ジャンヌ・ディエルマン/ブリュッセル1080、コルメス3番街のジャンヌ・ディエルマンのMinCのレビュー・感想・評価

4.8
アケルマンが25歳で撮った(オーソン・ウェルズが『市民ケーン』を撮ったのも同じ25歳だそう)淡々と日常を綴った日記映画。かとおもいきや、いやこれはなかなかにラディカルなフェミニズム映画のようです。

タイトルはジャンヌ・ディエルマンの住所と名前。40代にさしかかった彼女が息子と暮らすアパートメント、家、つまり閉じられた世界が舞台。

コツコツコツ…バタン!パチン、オギャー、ゴーーー。靴音、扉の音、照明スイッチの音、預かった赤ん坊の泣き声、アパートのエレベーターの音。劇伴はなく、それらが異様に耳につく。日常生活のささいなことすべてを見せられる。息子を学校に送り出す、買物に行く、ベットメイクをする、料理をする、コーヒーをいれる…とにかく膨大な家事のチェックリストを黙々とこなしていくこと、それを観客は物音のノイズとともに一緒に経験する、ただし、彼女が売春する時間を除いては。男を迎え入れ、送り出すシーンのあいだは映されない。

day1、完璧に家事一切をこなし滞りないいつもの日常。
day2、料理を失敗したり、息子が性への好奇心をあらわにしたりする。僕、父さんと母さんが夜何をしていたか知ってたよ。ジャンヌは、男と寝るなんてなんでもないことよ、と言いつつ母と女の均衡にざわめきとゆらぎが生まれる
day3、店は閉まっている、妹からプレゼントされた服のボタンはみつからない、珈琲は上手く入らない、カフェのいつもの定位置に先客がいる、いつものルーティンが上手くいかない。料理の下ごしらえも間に合わず、慌ただしく男を迎え入れるが、この日ははじめて寝室でのシーンが映される…

主演のデルフィーヌ・セイリグは
アラン・レネの『去年マリエンバートで』やトリュフォーの『夜霧の恋人たち』などで所謂キレイな役が多かった女優だけど、自らアケルマン作品への出演を希望したのだそうだ。
けれど上流階級の出身(アートへのホスピタリティはあるとはいえ)でコーヒーすらいれたことがなかった。
そのためデルフィーヌの身体を通じて、アケルマンは自身がずっと身につけ受け継いできた家事作業のリズムを表現した。即興ではない、すべて振り付けられたものーハイパーリアリズムであり、現代ではペドロコスタ、アピチャッポンに受け継がれていると言える(©大寺氏)
とにかく多くの映画作家に影響を与えた人らしい。

アケルマン追悼上映@アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ(大寺眞輔氏ティーチインあり、なので自分の感想と入り混じり及び長文ご容赦ください)
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