デニロ

愛の亡霊のデニロのレビュー・感想・評価

愛の亡霊(1978年製作の映画)
3.5
1978年製作公開。原作中村糸子。脚色監督大島渚。

公開当時、『愛のコリーダ』に続くハードコア2作目かと思って観に出かけた記憶がある。でも、映像の美しい愛の亡霊の映画だった。吉行和子と田村高廣のハードコアポルノ、そりゃないでしょうよ。当時、『愛のコリーダ』よりも良かったと思った。なにしろ日本版『愛のコリーダ』は恐ろしく美しくなかったんですもの。でも、あれからもう40年以上経過しているんだという事実。美しかった映像も少し褪色している。

大阪にいたときこんなニュースが流れた。九州から東京に単身赴任中の夫が、帰省中に何者かに深夜刺殺される。家には、両親と妻、そして三人の子供かいた。その数日後、早くも犯人が逮捕される。妻と情夫のふたりが共謀して殺害した。げっ。

本作はそんな話だった。大分くたびれている俥夫の田村高廣、40過ぎてもまだまだ若々しいその妻吉行和子。一日俥を引き暗くなって帰り焼酎をグイと飲るのが至高の楽しみの夫。そんな夫に感謝の念を抱きつつ甲斐甲斐しくそばにいる吉行和子。そんなふたりの前にやってくるのは兵役あがりの藤竜也。頻繁にやってくるにつけ、田村高廣は言う。/お前に気があるんじゃないか。/嫌だ~、26歳も離れているのよ。/えっ、そんなに離れているとは思えぬ若さ。若い藤竜也にとってもその柔らかそうなカラダはそそられるのです。

頻繁に訪れる藤竜也の若い肌の臭い。しばらくぶりの若い男にくしゃみが出る。目が痒い。いけないいけないからだの中心部の泉が湧いてくる。こんな時何かされたらもう我慢できない。女は絶え入る様に叫ぶ。今日もあの男が来る。胸をはだけ子どもと寝入る。彼を待つ。

そんな風に関係が始まる。もはやわたしの身とこころは藤竜也のもの。でも、わたしの容色は衰えていく。彼の若い身体がいつまで構ってくれるかしら。心配ばかり数える毎日。ふたりだけの時間がもっと欲しい。何とかしなけりゃ、アレを。目と目で通じあう今がチャンス。邪魔、と彼に言わせる。女の魔法。

田村高廣を亡き者にして三年。世間は夫の行方を知りたがる。出稼ぎに行っていて、と、それもそろそろ綻びが見えてくる。権力も訝る。ねえ、大丈夫かしら、/心配しすぎるな。/お互いに気遣いあうふたり。屋敷奉公から帰省していた娘が言う。父ちゃんが夢に出た。古井戸にいる。寒いって。村人の夢枕に立ったとも。ついには彼女のもとにも現れる。何も言わず土間に蹲っていたり、焼酎を舐めていたり、俥に乗せてくれたり。恨み言はなし。崩壊感覚。

吉行和子の柔らかい身体が妖しく光り輝きだします。

さて、単身赴任殺人犯もそろそろ刑期を終えて出てくるころだと思う。こっちは、愛だけじゃなくって保険金が欲しかったらしいけど。

国立映画アーカイブ 没後10年 映画監督 大島渚 にて
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