さすらいの用心棒

夢と狂気の王国のさすらいの用心棒のレビュー・感想・評価

夢と狂気の王国(2013年製作の映画)
4.0
宮崎駿監督『風立ちぬ』の製作現場に密着したドキュメント。

「夢は狂気をはらむ、その毒もかくしてはならない」
宮崎駿監督が『風立ちぬ』の企画書に書いた一文。

己への一切の妥協を捨てたゆえにスタッフにも妥協を許さぬ姿勢、ピリピリして疲弊した現場がジブリの製作風景だと思っていたし、他のドキュメンタリーを見ているとまったくその通りだった。
しかし、本作で映る風景は実に淡々たるもの。宮崎と鈴木が「主役の声は庵野でいいんじゃない?」と笑い交じりにいう一声に固まるスタッフたち。「オタクってのは学ばないですから。私はオタクじゃないですよ」といった直後にゼロ戦の玩具で「ぶううん」と遊ぶ宮崎。どこか和やかで、アーティスティックな画の切り取り方。作品としての完成度の高さに驚かされる。
アニメーションの製作はその苦悩が目に見てわかりやすいものではないため、そういった日常のエピソードに目が向けられがちだが、本当の闘いは机の上で静かに繰り広げられているのだろう。