映画漬廃人伊波興一

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴの映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

4.1
美醜を問わぬ慈愛の眼差しに満ち満ちて
ジム・ジャームッシュ『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

恐らくはその名前アダムとイブから創世記の頃から生き続けてきただろうと、察せられる二人は、21世紀の現在まで一体どれだけ隠忍し続けてきた事か。

恐らく何かを侮蔑する事も、何かの存在を否定する事もせぬ筈。

忌むべき風習や原始宗教に近いおぞましい伝統とも当然無縁。

彼ら二人から見れば人間たちの蛮行は常に憂鬱で、愚にもつかぬ肩書きを求め、ひとたび地位を得ると倨傲な態度をとり、仲間の命を軽んじ、入れ知恵されればどんな汚い任務も遂行し、自責の念のかけらも持ち合わせていないケモノ以下の存在。

ですがもともとアダムもイブも根にもつとか、意趣返しを企てるとか、親にねじ込みをかけるとかを考える存在などではありません。

だからこそ私たちは心配になります。かつて自動車産業で栄えた街・デトロイトも、貧困と人口減少で荒廃が進んだ今、もはや二人の安住の地といえないのではないか。

そしてジャームッシュはその通りだ、と迫り来るタイムリミットに向かって、この愛おしい二人を守ってみせる、てさえずるように、ある決断を赦すのです。

昼の間、心無い連中によって傷つけられた魂の傷を、悲しみや落胆と共に丹念に吸い取り、本然の姿に保つような法悦に浸らせてくれる美しい夜の映画。

美醜を問わぬヴァンパイア映画への眼差しが全編に満ち満ちております。