かなみ

ラストエンペラーのかなみのネタバレレビュー・内容・結末

ラストエンペラー(1987年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

アカデミー賞映画への抵抗感というか偏見、単調で分かりやすく派手で陳腐というのを叩き切られた。ベルトルッチの色彩感覚は言わずもがなだが、物質の質感のコントラストとバランスも素晴らしかった。紫禁城を彼以上に上手く撮れる監督は果たして居るのだろうか。
歴史映画とは名ばかりで、これほど政治的立場を感じさせずしかし溥儀という人間への感情移入を駆り立てるのも凄まじい。
家の玄関を跨ぐことが許されない唯一の男という表現がすべて なんて窮屈でやるせないのだろうか。美しい赤や黄色や緑の城で、滑稽な食事とその場しのぎの娯楽に呑まれず、生き抜いた溥儀の痛々しさと図々しさと弱々しくも愛おしい姿。
テニス中に軍に取り囲まれ、紫禁城を追い出される場面、溥儀という人間の品位や聡明さや潔さ、潔白そのものであるかのような映し出し方に魅了された。不貞腐れた皇后がパーティで一心不乱に花を食むシーンのなんと恐ろしいことか しなやかで刺々しい。母を殺め妻を狂わせたアヘンを、皇帝として操られていた満州国で大量生産していたことが何よりの悲劇のように思えた。満州国で日本が行った蛮行の数々から目を背けてはならない。変わり果てた正妻に涙をこらえながら拒まれるさまは痛々しく見るに堪えなかった。
老いた溥儀が紫禁城を歩くシーンには彼の個人的なノスタルジーに一切の悔恨や絶望は見えず、ひとりの実家に帰った人間としての無邪気さや愛らしさがあったように思える。コオロギへの帰結という半ば夢のような、美しく円環的なラストは、ラストエンペラーという断絶のタイトルを際立たせる巧妙なものだった。一人の男の愛と悲哀と波乱に満ちた人生が、終焉してから歴史として残る。時を経て「なんとなく」溥儀を認知している私たちもまた、彼への加害者の一員なのだろう。
有名なテーマソングは、溥儀の孤独な人生をドラマチックに彩り壮大さを際立たせる。しかし、徐々に権力に振り回される溥儀の人生の滑稽さを嘲笑しているようにも聴こえてくる。壮大な歴史の1ページなんてものではない、愛と憎しみと欺瞞と、一人の人間が受けた悲惨な運命の物語である。
かなみ

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