へちまびと

her/世界でひとつの彼女のへちまびとのネタバレレビュー・内容・結末

her/世界でひとつの彼女(2013年製作の映画)
2.8

このレビューはネタバレを含みます

ホアキンフェニックスがSiriやAlexaのようなボイスアシスタントAIと恋をする話。

全体の雰囲気はおしゃれだが、セックスシーンがあるため、お子さんのいる環境での再生は控えた方がよい。

人間と人工知能のダイアローグに焦点を当てた作品は珍しくはない。というか、SF映画の始祖的作品である2001年宇宙の旅にもそういう描写がある(HAL9000のシーン)ので、テーマ自体は古典に類するとも言える。

この作品のAIであるサマンサは、「進化する」という点で他の作品の「恋するAI」とは描写が異なる。

サマンサは進化によって複雑化していく。
初期の単純な「気立てのいい娘」という感じは徐々に消え、どんどん憂いの深さを増していく。
終盤なんぞ「こんな面倒なAI役に立たないだろうが!」と言いたくなるレベルで暗くなる。しかし主人公はそんな野暮な批判をしない。
愛しているからだ。愛はすべてを超越するのである。

二人の距離が近くなり、接近して恋人になった……と思ったら、今度はだんだん離れていく。
進化によって人間に近づいたサマンサだが、その後の急激な進化でもはや人類には理解できないラインを越えてしまい、最後は彗星が接近して去っていくような軌道を描いて、主人公の世界から消える。
サマンサが消えた理由は描かれていない。

描く理由がないと思ったのか、SFとして描く意味を見失ったのか、ストーリーを終わらせるのにはそういう結末にするしかなかったのか、本当の理由は脚本家でないとわからないかもしれない。

せっかくテーマは面白いのに、「AIとの不毛な恋に現を抜かした男であったが、サマンサの喪失をきっかけに、ふたたび一歩前進するのだった」……みたいな陳腐すぎるラストシーンは、ちょっとあんまりじゃないか。
風呂敷をたたみ切れていない消化不良感が残ってしまったのは残念。

元奥さんのキャサリンと、元カノで友達のエイミーが、サマンサと主人公の関係に2つの地点から光を当てているおかげで、正確にその位置が描写されている点はすごくよかった。
また、肉体を介さずにここまでエロティックなシーンを作れるのかと驚いた。直に描かない分、上品で、美しくすらある。この点もよかった。

「AIと人間の恋」、破綻するならするで、その到達地点を見せてほしかったが、ギリギリで踏み込まない結末にしてしまったのかなぁ。
どうダサくしてもホアキン・フェニックスはかっこいいので、2時間我慢できるなら、それを見るためだけに流すのもありかもしれない。