みほみほ

死を処方する男 ジャック・ケヴォーキアンの真実のみほみほのレビュー・感想・評価

4.4
💉2023年218本目💉(字幕)

自分や家族に置き換えたらあまりにも辛く、誰しもが目を背けたくなる問題であり、観終わった今も答えは出ない。テーマが重いから人を選ぶけど、全国民 必修科目にして欲しい作品。

今日もどこかで苦しむ人が居て、いつ自分や身の回りに降りかかるかは誰にも分からない。それなのに当事者達の苦しみや助けを求める声は、感情論や信仰、法によって打ち砕かれる不条理。

自分の身に起きてみないと 不安も経済負担も痛みも苦しみもただの想像でしかなく、事細かに理解する事は難しいけれど、答えの出ない議論だからこそ多くの人に考えて欲しいと思う。

自分が当事者か傍で見守る家族かにもよるけど、家族なら一緒に居れる最期の日まで生きて欲しいと願うだろうし、当事者ならできる限り家族と過ごしたいと願うだろう。しかし 苦しみが上回り、生きる事が苦痛でしかなくなったら、そこに死を選ぶ選択という術があって欲しいと思う。

自殺を推奨する風に捉えられがちだけど、ジャックは万人の自殺を助けたいわけでなく、安楽死・尊厳死が法で認められていない状況で自身の経験を元に本人の声を聞いているので、あからさまに怖いとか死神と批判するのは的外れだと思う。

家族が苦しむのを目の当たりにした人と、そうでない人とでも見方は変わると思うし、どんなに苦しんでいても 神のお導きに…なんて言ってる人には伝わらないのかもしれない。

人としてやってはいけない領域(タブー)ではあるが、当事者の意思は無視されている現状も不思議に思うし、法がしっかりしないからこそ悪い人間が蔓延り自殺幇助に見せかけた殺人事件に繋がる場合もあるので、法律でもある程度柔軟性を持って医療行為に対する矛盾が少しでも解消されて欲しい。

ただこういう制度が確立された時に怖いのは、自分が家族にとって重荷だからと考えて選択するケースや悪用して望まない殺人が起こることなど、問題点をあげればキリがない。

法でガシガシに固めてたら、苦しむ当事者をよそに審査に時間がかかって苦しみの中死んでいった…なんてことも当然起きるだろうし、患者の意思で簡単にゴーサインを出せたらそれはそれで何でもありで恐ろしいという不安もあるので、定義やルール決めが重要になってくる。

色々難題だらけだが、当事者の意思が尊重される世の中であって欲しい。そう願う事しか今の私には出来なかった。

忘れてはならないのは、自分が当事者になる未来だってある事。誰しもが当事者なら簡単に解決出来そうなのに、感情に左右されて安易に残酷だと言えるのは愚かだ。ジャックを悪人にして終われる人間は、将来自分や家族がそうなるかもしれない可能性を踏みにじってるのと同じ。

最後の行動は賛否あると思うけど、ジャックは問題提起の為に覚悟を決めてやったことだから、その評決に対し何も疑問はなかった。

欲に目が眩んだ敏腕弁護士の存在から、同じチームでも必ずしも同じ方向を向いているわけではないことを思い知らされるのが人間の汚いところを見せてくれるし、そんな中行われていくジャックの自殺幇助は信念があるのに、弁護士は自分の地位と名声の為に利用しているだけで、映画として客観視出来る自分の立場から見ると、当事者の苦しみすら利用しているようで、弁護士には嫌悪感が強くあった。ああいう人、どんな業界にもいるんだろうな。

ジャックの傍でよき理解者として佇むジョン・グッドマンが良かった。信念で結びつく不思議な縁に思えた。スーザン・サランドンの役柄も、頑なで心を見せないジャックをほぐす女神のような存在で彼女が辿る運命は衝撃的だけど、ジャックがそばに居たからこそ出来る選択だったと思う。

アル・パチーノの本作の演技は圧巻。本当に実在する医師にしか見えなかった。法廷での話し方ひとつとっても、圧倒的再現度を感じる。劇中出てくる作られた実録映像風の映像も、本物に見えるから凄い。

チラッと出てくるアダム・ドライバーの爪痕も凄かった。この作品以降、様々な映画に出演してるみたいだけど、スタートでこれだけ印象残したらそれも納得。

「スーパーノヴァ」や「さがす」でも描かれていた安楽死や尊厳死の家族の葛藤。本作ではそれを超えた医師の葛藤や世論の変化などを感じることができました。「PLAN 75」のような無機質に制度が存在し、仕方なく選択するという状況は避けたいので、しっかり法整備されて欲しい。一番は当事者の声を聞いて欲しい。

日本でも経済状況に関係なく、苦痛が限度に達した時には最後の決断を出来るようになるといいなと思います。こんな風に書いた今も、もし家族がその選択をしたらと思うと胸が張り裂けそうになりますが、自分は父の死の際に呼吸器の選択を迫られ苦しんだ事がありますが、自分の辛さではなく、父がこれ以上苦しむのは…と思い、父への執着を断ち切り選択した過去があります。なので他人事ではない苦しみを感じた作品でもありました。

こういった作品が生きる世界に大きな影響をもたらしますように。そして信仰は自由だけど、人の尊厳だけは奪わないで欲しい。あくまで神は信じたい人だけの存在であることに気付いて欲しい。どうか他人の人生を 神にかこつけて侵害しないで。

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