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アデル、ブルーは熱い色のNMのレビュー・感想・評価

アデル、ブルーは熱い色(2013年製作の映画)
3.5
原題 La vie d'Adele(アデルの人生)。
グラフィックコミック「Le bleu est une couleur chaude(ブルーは熱い色)」がもとで結末は違うらしい。日本語訳も出版された。

普通に恋愛ものとして良作だった。
激しくも切ない、若い恋。自分と違うところに惹かれ、その違いが終わりの原因にもなる。
世の中には実る愛と実らない愛があり、努力したからといって望み通りになるとは限らない。

導入部はテンポ遅め。
前半の彼らは高校生で、自分の性趣向を探り悩んだり偏見を浴びたりする。
後半は異性愛と特に変わらない、一つの恋愛が収束する様子。大人になってからの後半がおもしろかった。

性に関してフランスでも寛容な人もいれば攻撃的な人もいるという当たり前のことを感じる。若者だろうと大人だろうと。
またこの作品を観るかぎり、同性愛であれ何であれ恋愛は恋愛。始まりのときの社会的ハードルは高いが中身となるとほかの恋愛と同じ。

フランスの高校生や大人が性に対してどういう姿勢なのか、社会階層にそれぞれどう身を置いているのか、等ということについて示唆がある。それはもちろん人による。国や年齢という括りだけで一絡げにできるわけがない。

ヒロインのアデルは元々ぼんやりしたところがあった。口数が少ないし心情描写もないのは自分でも自分が分からなくて自信がないから。しかし恋については情熱の人。あるいはエマと出会ってそうなった。
情熱のみの人とも言える。性格は成人しても大きくは変わらず、自分のことを隠したらいいのか何を伝えれば良いのか終始迷っている。或いは恋をしてエマ第一になり自分がますます薄くなった。
アデルはエマと一緒にいたいだけで、一方エマはそれだけではない。高校生で始まる恋だから当然のことだが、この恋愛を長持ちさせるならアデルは急いで成長する必要があった。それが間に合わないと年齢差や価値観の差を埋めることはできない。自分の気持ちを整理して相手と向き合うことを知らなかった。結局アデルは大ダメージを追ったが、かといってエマと出会わなければ自分が何者か分からないままだったかもしれない。

二人のような夫婦はよくいると思う。夫が仕事にかまけ妻を放置、しかし浮気は許さない。二人も、収入の多く忙しいエマのほうが夫的役割になり、アデルは家事を担当していた。それについて話し合いの上での決定だったのかは自然とそうなったのかは不明。

アデルはそれで満足できるかというとそうではなく、出産についても意識していた。
一方エマは仕事を支えてくれることを求めた。
アデルが放置されても我慢しこの先も黙ってパスタを茹で続けるべきだったかというとそうとも思えない。
アデルの世界は幼稚園だけで完結しているのに対して、エマはどんどん世界を広げなければならない(どちらが上というわけではなく)。仕事の量や質、付き合う人間も違う。
アデルは他にはけ口を見つける必要に追い込まれていた。エマは放置するなら自由を認めてあげるべきだし、要求したいなら放置すべきでなかったと思う。
一方リーズは安定していて、最悪エマがいなくても一人で生きていけそう。もともと単身で出産するところだった。自立していて、家事も子育ても自ら選択し楽しんでいる。

日本でもよく見るけど、同性愛者と聞くと、例えばホモセクシャルであれば異性愛者の男性たちから触られる~掘られる~とか言われるのは本当に理屈がおかしいと思う。男性なら全員性欲対象かのように言うことがおかしい。じゃあお前らは本当に女全員対象なのかと。その彼から一度でも性的アピールを受けたのかと。
本作を観て、レズビアンの場合も女性から全く同じ内容の中傷を受けていることを知った。
差別偏見がどうというよりも理屈が通っていないことに個人的にいらいらを感じる。

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文学好きのアデル。見た目もかわいくて男女から人気。高校生活は楽しい。

好意を寄せてくれる同じ学校の男子とデートした。
しかしベッドをともにしても考えるのは、少し前に道ですれ違ったある女性のこと。
青い髪。恋人らしき女性と一緒だった。

結局その男子とはすぐ終わりにした。自分がはっきりわからなくて不安になる。
デモに参加するのも、日々の葛藤のはけ口にも見える。ここで叫んでいる分断をやめろというメッセージはこの作品に通底していると思う。
女友達とキスしてみたら興味を感じたが、向こうはその気はなかった。

ゲイたちが集まるバーで探してみると、青い髪の女性を見つけた。
少しの間会話をし、名前はエマで美術学校の4年生だと知った。

下校しようとすると、エマが待っていた。
エマの外見は目を引く。みんなが注目するなか、それを無視して二人は歩き出した。自分があやふやで不安だったアデルは、心理的にエマに導びかれて安心感を覚えた。

エマがアデルをモデルにデッサンをしながらお喋り。
高校では哲学に夢中だったらしい。彼女の話は面白い。口数の少なかったアデルが饒舌になる。
別れ際しばらく見つめ合った。

学校に行くと友達に問い詰められた。視線は冷たい。
以前キスした女友達が酷く侮蔑したので喧嘩に。
人が集まってきて、吊るし上げはやめるよう止めてくれた。

エマと会い一緒に寝た。エマとの相性は最高。
ゲイパレードにも連れて行ってもらった。そこでもずっとキスし続けた。

エマの実家に招かれ、エマの両親に歓迎された。
夜はベッドへ。
今度はエマを実家に招いた。アデルの両親は関係を知らない。一般的なことを言う。会話を合わせるエマ。
夜はまたベッド。周りが理解しないこともアデルにとっては恋の燃料。

やがて幼稚園教諭となったアデル。エマが暮らす家に同居している。幼稚園にはこの関係は伝えていない。
エマはもう青髪ではない。

エマの作品発表会とその後のホームパーティ。
あのデッサンも完成し展示されたらしい。エマにとって美しいアデルは創造の源泉。
アデルは大量の食事を準備。料理の腕がかなり上達している。日々家事をこなしてきたのだろう。

エマの美術関係者はみな明るく知的。アデルだってそれなりに勉強はできたはずだがそれでも尻込みしている。
客には臨月のリーズがいて、二人はお腹を触らせてもらった。エマの嬉しそうな笑顔を少し複雑な顔で見つめるアデル。
別の客がアデルが幼稚園教諭と知り、子どもが好きなんだね、欲しくない?と悪気なく聞く。別の話題を続けるアデル。
パーティーが終わるまでエマはリーズとずっと一緒にいた。仲が良さそうでアデルはまた複雑。

アデルは一人で皿洗い。ベッドで雑誌を眺めていたエマは、あんたも創作してみたらと語る。アデルは自分を表現するよりもただエマと一緒にいたい。それしかない。もしかするとここで執筆を始めていたら何かが変わっていたかもしれない。

どうもエマは忙しくてアデルを気にかけていない。アデルは落ち着かない様子だがエマは気づかない。

別の日。帰宅すると、エマからリーズとデッサンをしているので遅くなるという留守電が入っていた。
そしてアデルはずっと気に留めてくれていた同僚男性と関係を持った。

同僚に家まで送ってもらうと、エマが激昂。
問い詰められ、寂しさで何度か浮気したことを白状すると、その場で家を追い出された。泣いてすがったが聞く耳を持たない。

それからは涙に暮れながら一人で過ごす日々。子どもたちに優しくできないことも。笑顔が減った。

久しぶりにエマと会うことに。
エマはやはりリーズと一緒になっていた。
リーズは出産し3歳になった。リーズは毎日家事と子育てに明け暮れているらしい。エマは2人を家族として大事にしている。
出会った頃と同じ笑顔。バーで話した日を彷彿とさせる。
アデルは今もエマが好きで最後のアピールをする。ただここでも伝えられるのは一方的な激しい情熱のみ。いまだに他の手段を知らない。
エマは一瞬揺らいだもののそれはできないと涙を落とした。
辛そうにするエマを見てついにアデルは諦める。
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