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ノマドランドのNMのネタバレレビュー・内容・結末

ノマドランド(2020年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

アメリカのワーキャンパーたちの生活の一部を切り取る。
彼らの生活が楽でないことは誰でも想像に難くないが、どちらかというとこの生活の良い点のほうに目を向けた作品。
日々の葛藤はありそれからは逃れられないものの、高齢になるほどもう老後のために働く必要はないので、自由に暮らせるようにもなる。
といっても倉庫労働は早朝に出勤し長時間立ちっぱなしの重労働なので、彼らがありつける労働はきついものばかりなのは確か。
人生の価値とはなんなのか、考えさせる。
貯金は実際に老人になったらもう必要ない。良い土地が他にあっても移住したくない。誰も助けてくれないし、自分の好きにしたい。
常識にとらわれず自分にとっての大切なものをひたすら追い求めていく人々。
とはいえ、家に戻って暮らしてみたら以外と普通に馴染めた人などもいるのがリアル。
主要人物以外は実際のノマド生活者。
その中に黒人は一人だけ。この生活ができるだけでもまだ白人は恵まれているとも言えるという現状。
自分を定義するものはなにか。あなたはなんの人ですか、と問われたら、職業を答える人が多いだろう。
他に家族構成とか、住所とか。
それ以外には何が?と問われたら何と答えられるだろうか。

家族親戚含め、人付き合いとはどうあるべきか。
付き合いが多ければ偉いのか。距離が近いほうがいいのか。
そうとは限らない。ほんの袖擦り合う程度の縁でも、心のなかに生き続け、実際にまた出会うこともある。
お互い心地よい距離や頻度だからこそ、長続きできる付き合いもある。

もう遅いが映画館で観るとより自然の中に入り込めて良いらしい。この広大な自然、命の営みのなかでの私の存在とは、と確かに考えが進みやすそう。



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2011年、冬。
USG社はネバダ州の採掘所を閉鎖。
その企業城下町だったエンパイアは全員立ち退きへ。

アメリカではリーマン破綻の後、現役世代はもちろん高齢者にまで影響が及んだ。
最も費用のかかる家を手放し、職を探しながら中古のバンで転々とする生活。
まるでアメリカの伝統的な放浪生活、ノマドのように。

ファーンもここに勤め住んでいた一人。
みなはここを去ったが、ファーンはこの辺りで暮らし続けている。
申請すれば早めの年金受給も通るかもしれない歳だが、正規で働いた期間が短く金額には期待できない。
今年もアマゾン倉庫の冬季雇用で働く。クリスマス~感謝祭は繁忙期。
夫婦でUSG社で働いていたが働き口を失い、さらに夫は長い闘病の末亡くなった。
結婚指輪は外していない。

標高が高く雪の積もった広大な土地。海には荒い波が打ち寄せ、砂地と岩場が多い。
それだけに同じようなノマド生活者が暮らしやすい。バン生活者のための駐車サイトもある。
アマゾンは繁忙期の労働力を彼らに頼っている。
それに加えてファーンはこの土地に特別な愛着がある。

町には彼女を知る人もいる。
企業に務め結婚してここに移り、パートとなり、代理教師をしたこともある。
職業紹介は当てにできず、自分の足か知り合いのつてで探すほうがまだ確率が高い。

アマゾンの同僚リンダもバン生活者。
そんな人たちが集まるコミュニティを紹介され、ノウハウや過去の経験を分かち合った。
食事を共にし、火を囲み、踊った。
追いや貧困のみならず、病気、過去の思い出、経済社会に対する失望、様々な理由で旅に出る。
重荷から自由になりたい人、人生を整理する時間が要る人、何かを探し求めている人。

ファーンはこのサイトで同じバン生活者の男性デイヴと知り合う。
観光センターのツアーガイドをしていて、何かと声をかけてくれる。
立派なバンを持っていて紳士的な雰囲気。

ファーンは石などを売る何でも屋でも働き始めた。
さらに国立公園の整備も。

日々緩やかに人と出会い、程なく分かれる。
その日限りに見える小さな縁でも、近寄り過ぎない関係は不思議と長く続く。
誰かを見かけたら知らない人でもコーヒーやサンドイッチをあげにいく。声をかけあい、手伝いをする。

荒野で寄る辺なく生活する彼らにとって、死は隣り合わせ。
命について、人生について、日々見つめている。自問自答する日々

色々と世話をしてくれたリンダが、次の目的地へ旅立っていった。
高齢の人が多いので、目的がある人は先延ばしにできない。

デイヴが入院し、その後ファーストフード店で働くことに。
紹介してもらいファーンも一緒に働く。
休日を一緒に過ごしたりもした。
やがてデイヴの元に息子が迎えに来て、一緒に暮らすよう説得。
デイヴは、君も一緒に来ないかと誘いを残し、帰っていった。

ファーンは採石場で働く。思い石を運んだり重機を操作したり。
そしてキャンプ場の整備。
秋になれば果物の収穫の手伝い。

ある日愛車がついに動かなくなった。修理は数千ドル。
買い替えたほうが賢いが、彼女にとっては長年手をかけてきた家。
手放すことなど考えられない。

妹宅へ。
妹や家族たちと楽しく食事をしたが、価値観が合わず話が止まることも。
借金はできた。
妹はここで暮らさないかと言ってくれたが、それは無理だと断った。

感謝祭。デイヴ宅を訪問。
息子たちやその家族が賑やかに暮らし、デイヴもすっかり馴染んでいた。
バンはもう使っていない。
そこでデイヴから改めて一緒にいたいと言われる。

その夜、デイヴと息子がピアノの美しい連弾をしていた。
ハッとして声もかけられないファーン。
深夜ゲストハウスを抜け出し、自分のバンで寝た。
早朝、家を見回したあと、そのまま黙って出ていく。

エンパイアを訪れる。
倉庫にしまっておいた物を処分することに。
車に戻りふと涙をこぼす。

USG社の廃墟は今もそのまま。什器には厚い埃が堆積している。
昔の家にも立ち寄る。小さな平屋。なにもない。
ドアの外はどこまでも砂地で、遠くに山のふもと。

ファーンは小さなため息を一つつき、また一人バンを走らせる。



フォーエッグスケーキ……ファーンの得意料理。卵4個を使う。簡単でシンプルな普通のケーキ生地。カップケーキにしてトッピングしたり、バットで焼いて上面にクリームを塗ったり。
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