アキラナウェイ

インセプションのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
5.0
劇場公開当時、ただただ圧ッ倒されて、
迎えたラストシーンにも衝撃が走って、
レイトショー帰りの車の中で
「凄い映画観た」とガクガク震えながら
ハンドル握ってアクセル全開で帰った2010年。

子供達にもこの思いをinceptionしたくて、
「頭のいい人には絶対面白い映画」と触れ込んで鑑賞開始。中2の娘は知的好奇心を刺激されるのが好きなタイプなので、まんまと作戦成功。小6息子は早々にリタイアしたけど、お構いなしに子連れでノーラン沼の更に奥へ。

何度観ても、この世界観に魅力される。

映画って(当たり前だけど)、始まりから終わりまで一方向に進んでいく。でも、この作品は「深さ」という映画界の新次元を生み出し、3次元で展開していく。

人類の誰もが眠りにつくと見る「夢」の世界を驚愕の映像美で完璧に具現化させる事に成功したクリストファー・ノーラン。天才か。天才ですか。

夢を共有する事。
その夢には階層がある事。
夢の中での時間の経過が現実世界と違う事。
現実世界の10時間が、夢の第1階層で1週間、第2階層で6ヶ月、第3階層で10年…。

ヤバい。この設定によだれが止まらない。

眠らせたターゲットの特定の考えや思いを抜き取る事(extraction)を専門とした産業スパイのコブ(レオナルド・ディカプリオ)とアーサー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)。妻の殺害容疑をかけられ、アメリカに入国出来ず、子供達の元へ帰る事が出来ずにいるコブ。彼は、サイトー(渡辺謙)が提示した犯罪歴を消すという条件と引き換えに、サイトーの競合会社の次期後継者ロバート・フィッシャー(キリアン・マーフィー)への会社を解体させる思いの植え付け(inception)に挑む。

神がかったキャスティング。
仲間集めのリクルーティング。
それぞれの役割の明確化。
好きな要素が三拍子揃っている。

トム・ハーディやジョセフ・ゴードン=レヴィットを揃えた所にセンスを感じる。まだ彼らが今程有名じゃなかった10年前に。

夢の世界をデザインする設計士、ターゲットを騙す為に特定の人物に成り済ます偽造士、夢の世界を安定させる為に深い眠りを誘発する薬を調合する調合士。夢の中に潜入する事を生業とした職業や、特定のルールを、観ている者がついて来ようとついて来まいとお構いなしに、さも当然と解説を挿し入れてくる。

夢を見ている者を覚醒させる、三半規管に衝撃を与える「キック」や、死ねば目覚めるというルール、夢の最下層「虚無」の存在、夢から覚醒したかどうかを試す為の「トーテム」。細かな設定が知的好奇心を否応なしに掻き立てる。

そう、ノーランの思考のスピードと観衆の思考のスピードがそもそも違う。でも、自分より二歩も三歩も先行く小難しい展開が何とも心地良い。

再鑑賞して、改めて感じたのは、コブの元妻モル(マリアン・コティヤール)の存在感。はっきり言って怖い!!そして、コブがモルに感じていた罪悪感の根の深さ。

魂のレベルで何十年も連れ添った夫婦が、現実に引き戻され、若い肉体に戻った時の混乱。夢の世界を深く潜り過ぎたが故に誘発される当然の自問である「今見ている世界は現実か、夢か」という感覚。

妻を現実に引き戻したいが故に植え付けた「今見ている世界は現実じゃない」という思いが引き起こしてしまう悲劇。

深い。
世界観の深さだけじゃない。
愛が深い。

観ている者にも問い掛ける。
今見ている世界は現実か、夢か。

でもきっと子供達は振り返り、笑顔を見せてくれる筈。
彼らの笑顔を見れば、答えは自ずと出るのだろう。



圧巻の148分。
僕の娘も長い夢から醒めた様に恍惚とした表情で、この映画を楽しめたと言う。

まさに夢の様な時間を娘と共有出来て、僕は満足です。