キヨ

NOのキヨのレビュー・感想・評価

NO(2012年製作の映画)
3.7
<2014/9/1 ヒューマントラストシネマ有楽町>
独裁政権を倒すために、反政権側(no派)に許された15分のCM枠で人々の心を掴んでいく実話を基にした、ドキュメンタリー風の作品。

あらすじから想像していたけれど、見て思ったのがチリ版「アルゴ」といった印象。時代背景も近く、その当時の事件を記録映像でもなく、今風の映像で再現するというのでもなく、当時の映画風に撮るというコンセプトが近いのだと思う。特に今作は当時の古いカメラで撮っているため、最初見たとき「映写機の故障?」と思ってしまうくらい画質が古く、そのためほんとに事件当時に撮られたかのようなリアリティが出ていると思う。

あと面白いのが、主人公が反政権側にいるけれど、終始主人公にとっては面白いCMを作る、人を動かすということが重要だということ。その主人公を軸としているため、独裁政権側が悪いとか、反政権が正しいとか映画自体では主張してないように思える。結果として、対立する構図の片側の視点から物語を撮ってるのに、中立なドキュメンタリー風というちょっと面白いドラマになってる。

自分はチリの事情を全く知らず、知ってることも映画の内容のみだが、この映画は「良い悪いではなく、あのときの出来事を今一度よく考えよう」とも言ってるように思えた。ラストシーン、no派が勝利した場面で映るのは、独裁政権から解放されて喜ぶ民衆でも、政権を勝ち取ったno派でもなく、ある意味では部外者でもある主人公であり、その主人公の迷ったような表情と後ろ姿である。そこが「アルゴ」とか他の歴史映画と少し異なってる。パンフレットによると、独裁政権打倒後もある種の市場主義は踏襲された、あるが、ほんとにこの選挙の結果が今いい結果となったのか。ある意味変わらなかったんじゃないか。それが、ラストシーンで冒頭と全く同じ言葉を使い、同じようにプレゼンする主人公に表れてるようにも思う。

あらすじがすごく興味をひく内容で、エンタメ寄りの作品と思えば、すごく社会派な作品。その出来事のいい悪いではなく、主張がどっちであろうともう一度考えてみよう、と見た人に思わせる作品かなと感じる。
キヨ

キヨ