キヨ

ウインド・リバーのキヨのレビュー・感想・評価

ウインド・リバー(2017年製作の映画)
3.8
<2021/4/25 Netflix>
ある辺境の町で見つかった、女の子の変死体。
その女の子の死体は不自然に長距離を歩いた足跡を残し、雪の中に倒れていた。
その事件の謎を、新米のFBI捜査官と地元でハンターをする男を主軸として、謎を追っていくサスペンス。

見終わったあと、振り返ってみるとベースの話自体は意外にもシンプルな筋書きで、設定も比較的オーソドックスである。
「不自然な変死体の謎を追う」
「閉鎖的な辺境の僻地」
「メインの男女のバディで犯人を探していく」
それにもかかわらず、どこか特異的な静謐感と緊迫感を感じさせる映画だった。

物語の始まりからもどこか、特殊な緊張感を漂わせる。
冒頭はまだ事件が発覚していないにも、である。
冒頭は主人公の一人とも言える、地元でハンター業を行っている男コリー(ジェレミー・レナー)の視点での、1日が、雪が広がる世界と共に描かれる。
この冒頭からも、何か普通のサスペンス映画とも違う価値観の雰囲気が漂う。

その男が女の子の死体を発見、FBI捜査官であるもう一人の主人公が事件に駆けつけ、操作が続く。
近辺の怪しい人間、彼女の彼氏と思われる人間、不自然なスノーモービルの跡を追って、徐々に犯人へと近づいていく。
ここもオーソドックスであるものの、途中、別ルートで追っていた人物が、別の痕跡で追っていた箇所につながるなど、上手いツイストを入れ、飽きさせない話運びとなっている。
ただし、やはりここもこの映画の特異性の部分とはいえない。

この映画の特殊な緊迫感、特異性は後半にいくにつれて浮き彫りになってくる、
「この地域で生きること、それによっては育まれている価値観と生き方」
が大きいように感じる。
それは事件を捜査しているこの男、また捜査の中で出会うその地域の人々、そして犯人も含めてである。

雪で覆われた、閉じられた世界。
そこから出ることができない(と考える、もしくは実際そうであることも事実として) から生まれる価値観。
それに対して人々が感じている感情、そしてそれへの向き合い方。

コリーが途中、望んでいない今の人生に対して「世界中と戦いたい」という若者に
「自分は気持ちと戦うと決めた」といったニュアンスのことを言うシーンがある。
「世界には勝てないから」と。
ある意味で大人な成熟した発言のようにも取れるが、それは「世界(この場所)には勝てない」と言っていることである。
成熟した大人が、人生を経験した大人が、その上でそう言っている。
それには、彼の過去が関わってくると言うのもあるが、そこが何かやるせなさを感じる。

そう感じると、そもそも事件の発端である女の子の死体。
それが"不自然なまでに長距離を雪の中を走った挙句、助からず雪の中で亡くなってしまっている" と言うこと自体も何か意味合いが異なって見えてしまう。
途中で判明する「直接の死因」もそれを示しているように感じる。
どうすることもできなく、ただ負けてしまったようなやるせなさ。

序盤から感じる独特の静謐さや緊迫感はこの「やるせなさ」にきているのではないかと感じた。
物語のラスト、地域に根差した社会問題に対すること、その「やるせなさ」に言及がされる。
そのことについて、ラスト以外には直接的に弾劾する描写は多くない。
(地域として描かれて入るけれども)
それにも関わらず、ここにテーマが帰結されるように感じるのは、どことなくその"やるせなさ"を全編を通して、空気感が描かれていたからのように感じる。

あの地域の人ではない、ましてや国も自分からすると、彼らのような人々が生活の中で感じる切迫感や閉塞感のようなものは、頭では理解できても、実感することはできない。
ただ、そのやるせなさを外から知ることで、どこか空気感として垣間見えるのかもしれない。
そう思わせる、緊張感のある映画だった。
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