菅藤浩三

それでも夜は明けるの菅藤浩三のネタバレレビュー・内容・結末

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ニューヨークつまりアメリカ北部で自由黒人のバイオリニストとして家族と暮らしていたソロモンノーサップは、2人の白人に騙されて昏睡したまま奴隷として販売される。販売のときの格好が男女ともに真っ裸、まさに言葉を話す家畜であって生体が丈夫かどうかをみるためだけのものだった売り買いの様子を撮影したことにびっくり。いまの人間が家畜を見るときに家畜が服を着てなくてもなにもおかしいと思わないように、白人はだれもそれを羞恥心を蹂躙しているとも感じていない。ソロモンノーザップは賢いので材木商の買主フォードによりビジネスが効率的に進められるように助言するが、それを農園の白人の監督にねたまれて木につるされて殺されかける。信仰心が篤く温和なフォードはこのままではノーザップが殺されると危惧して別のエドウィンエップスという農園主に売ってしまう。エドウィンは非常に陰湿な性格で、ノルマの綿花収穫ができてない奴隷を平気で鞭打った。また女奴隷パッツィーを自分の性のはけ口にしており、それを知っているエドウィンの妻はむしろパッツィーに嫉妬でさんざんヒドイむち打ちを繰り返す、むち打ちのみみずばれがまた非常にリアルで残忍。
 12年間奴隷生活をしていたソロモンノーザップ、カナダ人で大工のブラッドピットと仕事場で出会い、自らの素性を信頼してあかし(実はソロモンノーザップはいちど白人を信頼して素性を白状したが裏切られたことがあった、これも描かれている)、ようやくエドウィンエップスのところに自由黒人であることの証明書をもった保安官がやってきてついにエドウィンエップスの奴隷から解放される。ニューヨークにもどったとき、ソロモンノーサップの小さい娘と息子は既に成人し孫もできていた。ハッピーエンドではあるが、それまでの12年間が実に切ない。
 アメリカの歴史の暗部から目を背けず製作されたノンフィクション、アカデミー賞でも作品賞・助演女優賞(パッツィーを演じたルピタニョンゴ)・脚色賞をゲットしたほか、ノミネートだけでも監督賞(スティーブマックウィーン)・主演男優賞(ソロモンノーザップを演じたキウェテルイジョフォー)・助演男優賞(残念な農園主エドウィンエップスを演じたマイケルファスベンダー)と、どの役者も抜群の演技である。クンタキンテのルーツを見た世代には満足できるクオリティなのではないか。
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