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それでも夜は明けるのRIOのレビュー・感想・評価

それでも夜は明ける(2013年製作の映画)
3.9
1841年、ニューヨーク。ソロモン・ノーサップは自由黒人としてバイオリニストの活動をしながら、妻と二人の子どもと裕福に暮らしていた。しかし、ある日突然白人の二人組に嘘の公演を持ちかけられ、酒と薬で意識を失った彼は黒人奴隷として競売にかけるために拉致されてしまう。

重厚かつ緻密な描写の数々が胸に突き刺さるような映画でした。
主人公の自伝が元になっている史実映画なのでドラマティックさは控えめですが、人間が人間に行う行為ではないその残酷な数々はしっかりと描写されており、あまりの酷さに怒りを通り越して絶望が襲ってくるようで。歴史の中に何人といた黒人奴隷達が正当な理由もなくこんな目に遭っていたなんて、何度知ろうとしても恐ろしすぎる事実です。傲慢な白人が、それが運命と定義するのも悍ましいほどですね。
一人の人間だけでは行動に起こすのも躊躇うはずの事なのに、社会の当たり前って本当に怖い。まともな思考を持った白人ですら、世間から弾圧される風潮の中では声を上げる事すら許されなかったのでしょう。

主人公・ソロモンの、アメリカにおける身分の高い黒人というのは「グリーン・ブック」のドンにも通じる人物ですが、今作は1841年の話で、そんなに古くから黒人の中で身分の差があったと言うのは驚きでした。彼らの歴史について、まだまだ勉強すべき事ばかりです。

数々の過酷な描写に伴う演技は各キャスト素晴らしかったですが、やはり圧巻なのはアカデミー助演女優賞も獲得した、ルピタ・ニョンゴの迫真の演技。当初は物静かで我慢強い少女だった彼女の葛藤や爆発がとても印象的に胸に残りました。
白人側で印象的だったのは、最初の雇い主を演じたベネディクト・カンバーバッチ。良い行いをしていたわけではないでしょうが、彼のような人もまた、社会が変わってほしいと思わずにはいられない一因に感じました。ブラピは、さりげないようでさりげなくない感じが少し違和感を齎していたようにも見えましたが…笑
主演のキウェテル・イジョフォーも今まで観てきた役とはまた違う、ぐっと抑えたような演技が響きました。

エンドクレジットでも紹介された、彼のその後。当時の奴隷解放運動における障壁は本当に凄かったんだろうなと…。バッドエンドではないはずなのに、どこか救いようのない遣る瀬無い気持ちにさせられました。それでもこういった人々の活動が、黒人の当たり前の人権を取り戻すいわば"夜明けの礎"になったのだろうと思うと、その偉大さには尊敬しかありません。

ゴスペルが響く美しい綿花畑の風景も印象的。自然の広大さと奴隷達の心への制圧が裏腹で心が痛くなりながらも、単純な画面作りの美しさには惚れ惚れしました。
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