ちろる

フルートベール駅でのちろるのレビュー・感想・評価

フルートベール駅で(2013年製作の映画)
4.0
2009年の元旦、幼い娘が家で待つ22歳の若い黒人男性が駅で射殺された。
引き金を引いたのは1人の警官。
そして殺された男性は丸腰の無抵抗であった。

ただ、淡々と射殺されたオスカー・グラント三世の殺されるまでの一日を追う。
大袈裟な演出は何もない。
ただ、家族との時間を過ごし、家族や友人と過ごした大晦日の一日をドキュメンタリータッチで追うだけの映像なのに、始まりに事件の映像が流れるから、彼が笑顔になる瞬間もずっと息苦しい。

過去には不倫もしたし、クスリで捕まり母親を悲しませたこともある、決して完璧な夫や息子ではなかったかもしれない。
しかし、今は愛する娘タチアナをとことん愛し、堅気の仕事で再出発を決意し、知らない女性をさりげなく助ける心優しい青年でもある。

「娘がいるんだ!」 「娘がいるんだ!」
と、押さえつけられながら叫ぶオスカーの頭の中にタチアナの笑顔がずっと浮かんでいたのだろうか。

アメリカでの警官による黒人に対する理不尽な逮捕や暴力と殺人の事件はニュースで数えきれないほど見てきたし、こういった事件をモチーフにした映画もいくつか観てきた。
ただ、こうして怒りの熱量を敢えて抑え気味に静かに描くことによって、オスカーやオスカーの家族が「もし、自分だったら・・・」と生々しく想像出来やすい作品となった。

息子を常に律してきた母親役のオクタヴィア・スペンサーの後悔と悲しみの叫びが辛い。
毅然と対応しようとしながらも後から後から溢れ出す涙に自分を抑えることのできない演技が印象的なので、尚更ねじ曲げられた正義感への憤りが観終わった今も後を引く作品だった。
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