えんさん

グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札のえんさんのレビュー・感想・評価

3.5
フランスとイタリアの国境付近にくっついているモナコ公国。首都モナコ市の占有している領土が、そのまま国家となっている世界で2番目に小さい都市国家だ。こんな小さな国家の割に、スポーツの世界では昨季は強かったサッカークラブ、モナコ(フランスリーグに所属)があったり、モータースポーツ好きにはF1やWRC(全世界ラリー選手権)などでもお馴染みになっている国だ。他のミニ国家都市でも、バチカンなら宗教、シンガポールなら経済の中心地になっていたりと、小さいながらも独立国家となっているのは、なっているだけの理由があるので、知名度のほうは意外に高いのも頷ける。本作は、映画好きなら知っている、ハリウッド女優グレース・ケリーが、映画スターという座から一転して公妃になった、その後の物語を描いている。

グレース・ケリーが、モナコ大公レーニエ二世に嫁いだのは1956年。ハリウッドではトップポジションを演じていた女優が、そのままプリンセスになったというのは、傍から見ればシンデレラ・ストーリーでもあるし、僕も映画を観るまでは、いい玉の輿話を描いているのだと思いました。でも、内容は一転、描かれているのはモナコが置かれている国としての危うさの部分。いくらスポーツやカジノで名声を得ても、所詮はミニ国家。国防などは現在でもフランスが代行するような形で行っている。国としては1900年代初頭の大交ルイ2世がフランスに多大な貢献もしたことで、フランスとの友好関係は続いていたが、第二次大戦後の植民地独立運動で疲弊したフランスは税制政策でモナコと対立することになる。国境封鎖などの強硬策に出るド・ゴール政権(当時)に対し、モナコが取った行動が作品のメイン部分になってくる。

映画で描かれるのは、グレース・ケリーがこのモナコの危機にどう公妃として対応をしていったかという部分が中心になります。この辺りの歴史的な裏付けがどこまでされているかが分かりませんが、当時のニュース映像なども活用されながら描かれるので、真実にかなり近いのでしょう。ケリーが単なるお嫁さんとしてチヤホヤされ、何もしなくてもいいというお客様的な立場から、公妃として1本芯の通った存在になっていく様はなかなか見応えがあります。描かれる場所も時代も違いますが、作品の方向としては「英国王のスピーチ」に若干似ています。ただ、1つ違うのはグレース・ケリーはハリウッドの星だったという名声の部分。これを彼女は巧みに武器にしていきます。自分よりも、全てはモナコのために。こう思えた瞬間の彼女の変わり様・生き様を、ニコール・キッドマンが好演しています。なかなか渋めな色の作品なので、観る機会がないでしょうが、力が入った力作だと思います。