デニロ

(秘)色情めす市場のデニロのレビュー・感想・評価

(秘)色情めす市場(1974年製作の映画)
4.0
2025年大阪・関西万博(2025年日本国際博覧会)を開催するらしい。キャッチコピー/くるぞ、万博。/なんだそうで盛り上がってますか?大阪、関西!!大阪の人は万博が好きなんでしょうか。1970年にも日本万国博覧会が開催されていた。その時のテーマは、「人類の進歩と調和」でありました。

本作は、それから4年後の1974年製作公開です。雑然とした通天閣周辺の街並みの下に集う人々の呻吟が描かれています。4年くらいじゃ進歩も調和も達成できまへんがな、とばかりに脚本いど・あきお、監督田中登が“新”世界をぶった切っています。わたしの町では同じ年の12月に公開された。『濡れた賽の目』『江戸艶笑夜話 蛸と赤貝』が同時上映だと記録があります。10代のわたしには荷が勝ち過ぎた作品だったと思う。傑作の誉れが高かったけど、何が何だか。

淫売宿の女将絵沢萠子の説得にも関わらず一匹狼の娼婦になった芹明香。ウチな、なんか逆らいたいんや。絵沢萠子の店でたむろしていると、客が気に入らんと揉めてるからあんた替わりに行ってくれない、と頼まれて出掛けると、その場にいたのは自分の母親/花柳幻舟。おお、こっちやこっちや、若い娘はええなあ、肌が違うと相好を崩す客のおっさん。

ここは大阪釜ヶ崎。いろんな事情を抱えた人々が集まる街らしい。花柳幻舟も、15歳で芹明香を産み、その後売春稼業で生計を立てている。そして今また誰のものとも分からぬ子を宿してしまう。始末しなくては、でも誰も助けてはくれません。そんな花柳幻舟の無心をにべもなく断る芹明香。うちは生まれた時から人でなしや。行き詰った花柳幻舟は枕さがしに及んで取り押さえられる。警察に連行される際に流産してしまうのだけど、その母の姿を見ながら、ウチも、ああやったんや、あの子はウチや、と涙を流す。

いつまでもそんな風にワンピースをひらひらさせているわけにもいかぬだろう。この町を一緒に出ようという男の誘いを断って、この街な、みんな根無し草や、みんな望み捨ててるんや、とだからこそこの町に居続けると応える。

ついこの間、人類の進歩と調和を唱えていたんじゃなかったのか。この町だけがおいてけぼりなのか。ただの穴ぼこ、と芹明香の生きながら死んでいるような気怠さが10代のわたしにはさぞかし疎ましかったことだろう。この町を出ようと誘ってくれた男は世界を変える革命家なのかと思っていたら、そうじゃなかった。体制のスローガンも革命の正義もみんな夢の中。

♬背のびして見る海峡を 今日も汽笛が遠ざかる あなたにあげた 夜をかえして♬(港町ブルース 歌詞:深津武志)。

この町に新たに入り込んだ宮下順子がサイドストーリーを彩ります。芹明香の気の乗っていない演技に比して、これこそがロマンポルノの演技ですというエロさ満開の演技を見せています。この作品の宮下は実に可愛らしく愛おしい。真珠入りのイチモツをキリリと固くした高橋明がしたい放題です。

隠し撮りで芹明香が男に声を掛けるシーンがあるんだけど、どの男も顔の前で小さく手を振ってお断りしている。魅力なかったんだろうか、それとも誘いに乗ったシーンは没にしたんだろうか。ミミズ千匹を自慢する女子はよく聞くけれど、ウナギ千匹は初めて聞いた。それで敬遠されたのか。50年振りに観た本作の芹明香。結構美人じゃありませんかと思うに至ったのは枯淡の境地のなせる業でしょうか。

さて、2025年大阪・関西万博のテーマは、/「いのち輝く未来社会のデザイン」実現に向けて/だそうです。生きながら死んでいるような芹明香はどんな未来を生きたのでしょうか。

神保町シアター女優魂――忘れられない「この1本」(芹明香)にて
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