色恋とは無縁の人生を歩んできた三十路の男が、ふとしたことから恋愛経験のチャンスを得る。森三中の大島美幸が、お人好しの中年男を演じている、ヒューマン・コメディ。
善良であるがゆえに、色恋を自分の方向へと引き寄せることができない。そんな、車寅次郎的な中年男の人生模様を描いている作品。感傷的な音楽を使用せず、セリフ劇に集中させてくる演出が特徴的(無意識にやっているのかも知れないが)。
主人公のトラウマが、筆者の学生時代とそっくりなため、非常に心が痛む。写真家志望のヒロインが「風景写真ばかり撮っているため、人と向き合ったことがない」というのも、人形の写真ばかり撮っている自分と重なり、ダブルパンチを受けてしまう。
絶対普遍の「善きこと」とは何か。自分にとっての「幸福」とは何か。ヒューマニズムの根源部分を、ミニマム劇の中でさらりと提起してくる。その軽やかなフットワークに、魅力が詰まっている。