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卍 まんじのtakのレビュー・感想・評価

卍 まんじ(1983年製作の映画)
3.2
谷崎潤一郎の原作にある園子と光子の同性愛部分だけを切り取って、ソフトポルノ路線に仕上げた作品。園子の夫こそ登場するが、光子につきまとう綿貫は登場せず、主役二人にフォーカスしている。それだけに惹かれ合う女性二人の心理が丁寧に描かれており、原作とはかなり違うテイストだが、本作を支持する人も多いと聞く。

この映画がとにかく不思議な雰囲気なのは、登場人物3人が"ごっこ遊び"を繰り返すことだ。自分が死んだとしたら墓の前で何を話すか、と切り出した光子。墓の向こうに隠れた光子に、園子は涙しながら語る。まさにお墓まいりごっこで、冷ややかな見方をすることもできるのだけど、こういう場面があるからこそ女性心理が描けているとも思える。"ごっこ"はこれで終わらない。光子が園子夫婦と一緒に暮らすようになると、さらにエスカレートする。眠れない光子が"狼と羊ゲーム"をやろうと言い出す。狼役の光子が羊役の園子を襲って「死んでなさい」と言った後で、園子の夫に襲いかかる。なるほど、睡眠薬を飲まされた園子の隣で夫と光子が抱き合っている様子を翻案したものだ。

そして光子が夫と関係したことが明らかになる場面は、警察を真似た"取り調べごっこ"となる。二人がかりで一人を問い詰めるこの場面はコントのようなおかしさがある。男女3人のもつれ合う関係が明らかになり、奔放な光子に翻弄されている様が描かれていく緊張感。下着にコート姿で刑事役をする高瀬春奈が妙に色っぽい。そして原作とは違う結末が待っている。

1964年版の「卍」で光子を演じた若尾文子から感じたオンナの魔性と比べると、樋口可南子の光子はまさに小悪魔。1980年代の樋口可南子の活躍はいま考えるとすごいよな。テレビの映画番組で観た「戒厳令の夜」、山田詠美原作の「ベッドタイムアイズ」、今でも"蛸となさった"場面が語り継がれる「北斎漫画」など身体を張った作品が多い中、「男はつらいよ」のヒロインもこなした人気ぶりだった。この「卍」を観ても当時の輝きが感じられる。
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