父母ともに癌

映画 中村勘三郎の父母ともに癌のレビュー・感想・評価

映画 中村勘三郎(2013年製作の映画)
4.0
中村勘三郎というエネルギッシュで魅力的な歌舞伎役者の活躍と早すぎる晩年を映したドキュメンタリー。

特に歌舞伎に興味は無いのだけれど、名人伝というか、芸談というか、そういう役者や芸人に関するエピソードや幕内ものが好きなので観た。
面白かった。
中村勘三郎という人の歌舞伎に対する取り組みや考え方、そして芸に向き合う真摯な姿勢には普遍性があった。
特に感銘を受けたのは、新しいことをやり続ける勘三郎が、忠臣蔵を公演する際にはとにかく伝統に固執し、古老から学んで後輩を厳しく指導していく姿。「違う、そうじゃない、こうだ」という風に指導していく姿には伝統を守る、という意志を強く感じた。
新しいことをやっていくと共に伝統を守る。どちらもとても難しいことであるというのに、どちらも完璧にやろうとする勘三郎という人に凄みと業を感じた。
ただ、伝統を守ることと、歌舞伎をアップデートすること、一見して相反するこの思想をどのように両立させていたのか、そこまではこの映画ではわからなくって、気になったところではある。やっぱり「伝統を現代に」なんだろうか。

でもそんな勘三郎にも死はやってくる。しかも急速に。
この悲しさったら無い。
完全にやり残してる。勘三郎の悔いを思うとなんだか胸が詰まってしまう。
映画の端々から歌舞伎役者中村勘三郎のすばらしさを感じるので余計。
そんな勘三郎の死を悼む古老や、悲しみにくれ、そして前を向く家族たち。
息子たちに厳しく芸を仕込んでいた勘三郎。息子の大成を見届けること無く死んでしまう悲しさ。しかしそれでも芸は受け継がれていく。
ラストシーンは勘三郎の孫が勘三郎の連獅子のビデオ映像を観ながら連獅子の真似をする。芸はそれでも受け継がれていくのだ。そしてそれを見つめる周りの人間の幸福そうなこと。伝統や芸の持つ、個人の死を飛び越えるようなある種怪しい魅力について考えさせられる。

歌舞伎知らなくても全然楽しいし、勘三郎の歌舞伎を観に行きたくなるけど、勘三郎はもう居ない。
そういうどうしようもない悲しさに襲われる映画。
生きてるうちに生きている人は観ておかないとだめだ。残酷な言い方になるけれど。
父母ともに癌

父母ともに癌