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PAN ネバーランド、夢のはじまりのJIZEのレビュー・感想・評価

3.6
枯渇な理想郷ネバーランドを舞台に戯曲ピーターパンを模る大人になれない少年の寓話的な冒険譚!!前半部の海賊船と軍用機の奇怪な追跡劇を賞賛!!先住村ネイティヴビレッジの仮想的な幻想感を固く指弾!!妖精ティンカーベルやクロコダイル童話踏襲も別物!!まず簡単に本作のメタな背景に接続した位置付けを補論すればジェームス・マシュー・バリーによる戯曲『ピーターパン(1953年)』物語を基に主人公ピーターが孤児院での生い立ちや理想郷ネバーランドの存在,予言や人形,妖精の島など永遠の(飛行)少年になる遥か以前の誕生秘話を本家童話とは少し距離を置きパラレルワールド的な中間に位置し稀少な構成。オリジナル要素も直球構造で外連味を一切排除。要は無難でイノセントな誰も知らない前日譚。シナリオ自体も劣悪な環境下で育った主人公が,突如異世界に飛ばされ救世主である事を宣告された事から躊躇し,己の運命を切実に享受しながらも,有志を養い成長を遂げるっていう単的な冒険,友情,成長譚を神話的に内包し仮想空間を織り交ぜる前日譚な立場でオリジナル脚本。先に全体像の結論述べます。要はこういう事だと思う。(予備知識でも)本来は理想郷である筈のネバーランドの舞台設定が岩壁に囲まれた炭鉱設定な違和感や亡きピーター母親との依存的で幼稚な大人になれない資質,フック船長や先住民の戦士タイガーとの淡い恋愛模様など童話と乖離し調整した箇所諸々が全て裏目に配され展開的に単調で陳腐だった。一言で要約すれば退屈ではなく諸々全てが無難すぎた...観終わり調整箇所や特質点を色々模索し試行錯誤しました。要はネバーランド(覚めない夢)という希望や夢,冒険心に満ち溢れ本来の居場所(ルーツや自己(我))を孤児院の子供たちが果敢に探す永遠の旅路の本筋(話)が原作の童話ありきで実は豪胆にも辻褄合わせな裏付けを考えず展開や構成を強引にもファンタジック感前提で色々(人種差別の問題も含め)揉み消し突破した怪作なんじゃないかと結論的には思えた。童話を踏台に中盤や終盤は別映画感が否応無く際立つ。展開もね大人高等向けのワンロジックが絡まず純粋な題材に拍車を掛けるよう展開も幼稚で捻りゼロ。理想郷ネバーランドという魔法染みるイノセントな世界観と直球故に幼稚な脚本の同系色な抑揚の無さや退屈さは一切捻りや転調が無く否めなかった。またディズニーの童話をモチーフ別配給で製作された似て非なるレアセドゥ版『美女と野獣(2014年)』に物凄く近い余韻を覚えた。自分自身を信じ世界を開拓するポジティブな暗喩を謳う割に結構主役がクライマックス間際まで母親の亡き妄念に苛まれ行動を鈍らせる受動的で自己的な利益を追求する姿勢も正直やってる事と謳い文句で発言してる事の摩擦が生じ首を捻らざるを得ない。実に無難な映画だった。

概要。永遠の少年ピーターパンの誕生秘話を描くファンタジーエンタテインメント。監督は『プライドと偏見(2006年)』や『アンナ・カレーニナ(2013年)』のジョー・ライトが担当。黒ひげ役には『ウルヴァリン』シリーズのヒュー・ジャックマン。タイガー・リリー役には『ドラゴンタトゥーの女(2012年)』のルーニー・マーラ。少年ピーター役には新人のリーバイ・ミラーが指名された。また本作は『ターミネーター:新起動/ジェニシス(2015年)』や『ファンタスティックフォー(2015年)』と並び2015年を代表する不発映画とし海外でも興行収入共に残念な1本として挙げられました。

物語の筋道を順に掻い摘んでいけばまず開幕アマンダ演じるピーター母親がロンドン夜道を赤ん坊を抱え捨て去る場面でソコよりも黒ひげ側と対立する更に過去に遡る背景を部分的にでも魅せた方が中盤以降で突如紐解かれる謎に入り込めやすかったんじゃないだろうか。また赤ん坊を確か玄関前だったと思うんだけど置き去りにするシークエンスは『ハリーポッターと賢者の石(2001年)』オマージュかと配給会社も同じで暗鬱な雰囲気的にも思いましたが。

あと12年の歳月が流れ第二次大戦中のロンドンに時代のフォーカスが切り替わりピーターが厳格なランベス少年孤児院で半分雑用っぽい仕事を担わされ本作を監視し1番賞賛した場面。友人が海賊船から飛び降りる非人道的な裏切りは置いといて,まさに現実感がシッカリと肌で感じ取れる仮想的でない感じが意地悪の長老的な事務員や地下室の記録庫で硬貨や蜂蜜など宝の山を採掘し母親の手紙を見つけ出す現実っぽさが良い。要はこの孤児院の子供たちは意気地なババアに虫ケラ同然に扱われ連帯責任な罰を強いられてるんですよ。ほぼ毎晩に渡り。それ故の突如天井窓からロープを伝い次々にベッドで寝てる子供たちを捕まえ海賊船に引き入れる夢の勧誘的な現実感が崩れ仮想世界に足を踏み入れる接続の仕方は未知なファンタジックさ併せ持ち世界と世界の繋ぎ目をアニメ童話っぽく"連れ去られる"というエモーションでゾクゾク感を演出したのは好みだった。欲を言えばこの人買いビジネス背景や海賊船が縦横無尽に現実世界を飛び回る原動力のロジックを効かせれば完璧だった。まぁ無い物ねだりですが。後にロンドン夜景をバックに軍用機と海賊船が追跡劇風に飛び交う白熱場面が1番興奮したかな。垂直に上空を飛翔する場面は海賊船内のO2問題は一体どうなってるんだという根本的なアラに直面するがファンタジーだから何でもありか。とにかく孤児院からネバーランドに出向く以前の前半部は現実っぽさがリアリティ追求されロンドンのお洒落で綺麗な夜景や孤児院での下積み感など幻想感が混ざってないだけに感情移入も容易く開幕30分は秀逸に思えた。

で,問題の理想郷ネバーランドと先住民村ネイティヴビレッジ。まず前者ではヒュー・ジャックマン演じる黒ひげが"ピクサム"という"妖精の粉"を確か肉体維持の為だったと思うんだけどソレを求めネバーランド(覚めない夢)という半ば奴隷市場的な炭鉱場で若僧に採掘作業を命じ発掘した者には褒美をルールを破った者には厳格な罰を。とまぁ威厳を放ち権力者ぶり欺瞞にも支離滅裂にもやりたい放題なんですよ。で黒ひげがピーターの資質を把握した事で狙い出す訳ですが,この映画ハッキし言って黒ひげ視点で『ピーターパン』というアナザーストーリーを創り上げた方が意外性あり違う角度から捻り効かせ成功したように思えましたね。それ程に黒ひげという欺瞞や強欲に満ち溢れ人を利用し頂点に君臨する悪役像の余韻が映画観終わってもガツンと印象深かった。黒ひげの目的は眠りの世界に溺れている人間たちをネバーランドという支配下で牛耳り他者を支配下に置くトンデモない悪行高き野郎なんですがあともう一歩ってトコで手を緩めたり極悪非道な悪役像として振り切れなかった箇所もなかった訳ではない特に先住民の村でルーニーマーラ演じる役を人質に罰を下す場面なんかは。だから大人向け映画ならキャラ造形も完璧だったんだろうと思えば悔しさもある。おヒュー様だから王業さや貫禄を黒ひげという暴虐無人な悪党に擬態させ演じ切れた部分も多いのかな。とにかく本作の悪役像の描き込みは実に見事だ。炭鉱場から脱出手段でアクション演出をワンクッション入れたのもこの映画内て見積もれば外連味ありスカイポートに飛び乗る為にケーブルを利用し豪快感を奈落の周囲が岩壁に囲まれた絵的な大スケールと共に画角視野を広く取りカタルシスを放つ場面は見事だ。

後者の先住民の村では完璧にピーターパン感が削ぎ落とされアジア系の別映画化に転換されていた。ルーニーマーラ演じる役柄もシナリオ上特に必要なかったし村の長老的な奴と白熱するレスリング的な決闘も特に意味ナシ。怪鳥ネバーバードの例えればティムバートン感は1つ前に扱ったジョニデ主演『スリーピーホロウ』を凌ぐ抜け出た感じで奇怪な世界観の構築に役立てていたと思う。あとピーターが首に備え付けるネックレスの真意も語り口調で背景を通じ劇中に補論される訳ですが,説明仕方が下手なのか物凄く伝わり辛い感じを抱いたのは私だけでしょうか..もう少し丁寧に時間を割き重要な一場面なんだから童話的な絵のモチーフでなき実際俳優に様子を演じさせるべきだったね。会話上でゴチャゴチャ淡々と処理されても現在軸で動く展開とほぼクロスしないので結果観終わりほぼ印象に残らないっていうね。あのほのかに手作り感ある絵とそれに連なる会話処理の演出は厳格に残念でした。

まぁそれ以降の展開は記載を控えますが海賊船チェイスや解き放たれたファンタジック演出など想定範囲内で残務処理的に全ての騒動が収まるので膨らませ方の問題かとも思えた。あ,暗黒卿的な境地に堕ちたネバーランド自体の枠組みをパンが救世主の役割を担い変革し世界を救済しないんだとか..ここでも受動的な主人公の性質が垣間見てしまう。トンデモなくピーターが覚醒し神々しいクライマックスも,立派な救世主に成長を遂げる前後の間が極端に端折り気味で感情動向の決意や葛藤の微妙な調整を周囲が勝手に動き出しパンがソレに受動的に導かれるため全てソレに乗っかっていく。主導的に何かを自己の闘志で決意し解決に向かう主体的な描かれ方がほぼクライマックス10分程度なので題材的にも理に叶わず残念な拠り所。

結局この映画が劇中メッセージで観客に伝えたかった事は「自分自身を信じろ!」や「勇敢に道を切り開く冒険心の大切さを抱け!」など大人子供問わず童心に帰り恐怖を省みず勇気を出し前に進み続ければ自ずと道は開く!と捉え方によっては安易で陳腐な感じは拭い切れない訳だが本来童話上では敵対視するフック船長との友情を濃くバディ感を踏み描いた構成が相容れない者同士でも助け支え合う事で予期せぬ威力を対象に向け発揮し時に奇跡や希望を生み出す可能性の描き方はまさに夢や想像力を養い決別した者同士の誕生譚な観点でも観てて凄く微笑ましく笑えましたね。フック船長がかぎ爪を使用せず素手で闘う違和感はご想像通りで1箇所だけ使用する場面が序盤にある。またマーメイドドラグーンでクロコダイルがピーターを襲う不穏な場面も1番迫力あり好みだしティンカーベルの適当なキャラ造形による脱力感もディズニー製作でない分,惰性で描いてる感じは否めないんですが製作側が頑張って詰め込んだだけでも許容範囲とする。あと今回は字幕で監視したんですが日本語吹き替え版の主題歌は松田聖子が担当らしく間違い無く『インサイドヘッド(2015年)』ドリカム問題に続く一端を担わせる首を捻らざる得ない作品になりそうです。あと海外では本作を人種差別のメタな暗喩で賛否騒動を巻き起こしたみたいですが白人のルーニーマーラを起用した意図も問題を避ける為の主張だそうです。確かに鉱山場で奴隷的な発掘作業の一端を担わされる場面は部族的な宗教関係や人種問題が見え隠れし中々踏み込んだ展開だとは感じましたが。結果的に観終わりロンドン夜景と共に消え去るJOLLY ROUGGER号の行末を観たい前日譚でなくディズニー配給で公式仕様なピーターパン映画化を原作忠実に踏襲し希望ですかね。ビックベン周囲を軽快に飛ぶ絵が劇中でなかったのでソレも含め実写版でやはり観たいですから。あとミュージカル劇の演出が劇中で過度に少ないのはワーナー配給だからかな。主題歌が微妙なのも配給会社に問題がありそう。元祖ピーターパン世代には寛容な姿勢で本作を推奨。新規にはファミリー映画な観点で秋の夜長にしんみり友達なり恋人なりと観れば監視後にホッコリしそれなりに話題で盛り上がれ元は取れる温情味ある冒険譚な映画かとは思います。ただ,私自身はファンタジック感の魔法に後押しされ無難な及第点に着地したハリポタ的な万人層を意識し製作した感が抜け落ちない無難な余韻でしたが。あと最後にもうワンプッシュ現実世界の第二次大戦と重ねたクロス演出や孤児院の意地悪館長が営む人売り闇商売の背景を掘り下げ漠然的にでも描けばオリジナルの前日譚な観点でもう1,2歩踏み込み佳作な映画(境地)に突き抜けた要因にも欲を言えば思えた。大海原を駆け巡る大冒険に出ましょう!自分を固く信じる事で道は開かれ魔法(有志)が友情や冒険心を育む非常に開かれた映画。是非リアルタイム劇場で。お勧めです!!
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