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インポート、エクスポートのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

インポート、エクスポート(2007年製作の映画)
3.5
【ユートピアはユートピアではない】
ユートピアだと思っていた場所が、実は過酷だった作品は昨今沢山作られる。しかし、物語の尺や焦点の都合上、一方面でしか語られないことが多い。それこそ多面的に描いた作品は、ぱっと浮かぶもので「バンコクナイツ」ぐらいです。

そんな中、このオーストリア映画は秀逸に、ユートピアを夢見る者の蹉跌を多面的に描いている。本作はウクライナからオーストリアへ行く者、とその逆の物語を交互に描いている。それぞれの話は劇中で交わることがない。EUという国境が形骸化し、人の出入りが激しいところだからこそ起こる悲劇がドライなタッチで描写されます。

ウクライナのシングルマザーは、退屈で生きにくい「今」から脱却するために、給料も生活水準も高いと言われるオーストリアで、掃除婦として働く。しかし、屋敷の子どもと争いになり、クビになってしまう。移民、低階級に対する使い捨て、人権軽視な部分が垣間見られる。そして、結局はウクライナと同じような過酷で退屈なライフスタイルに戻ってしまう悲劇が描かれている。

そしてもう一つの話は、オーストリアのカイジもびっくりクズ野郎の物語。夜警はクビになり、友人に借金ばかりし、女にもあきれられるどうしようもない男が、父親の家業を手伝いにウクライナへ行く。異国の地、それも経済水準がオーストリアよりも低い地で好奇心を抱く男が、結局オーストリアでの生活と変わらぬところまで墜ちていく様子をこれまたドライに演出する。

経済的にも心身的にも落ち込んでいる人は、「移動」でもって不満を払拭しようとする。少しでも豊かになろうと、移動する。しかし、そもそもの性格やスキルが変わらなければ結局、生活は以前と変わらない。その普遍的テーマを、2方面の軸からストレートに突きつけてくるウルリヒ・ザイドルのスタイルに圧倒されました。

彼の新作「サファリ」が来年、日本公開するようなので楽しみです。
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