キヨ

バルフィ!人生に唄えばのキヨのレビュー・感想・評価

バルフィ!人生に唄えば(2012年製作の映画)
4.2
〈2014/9/6 Tohoシネマズシャンテ〉
耳が聞こえない主人公バルフィと彼に関わる二人の女性を中心とした、心温まる不思議な物語。

主人公バルフィが耳が聞こえないため、聾唖者(言葉が喋れない)であるが、そのことを一切悲しくは描かず、どこかコメディめいて描いている。チャップリンとキートンをオマージュしたキャラクターとアクションは序盤からとても楽しい気持ちにさせてくれる。個人的には年代的にMr.ビーンを思わせてくれました。
また名作映画のオマージュも多く、映画ファンもとても楽しめるシーンが多いと思う。自分はそこまで多くオマージュ元の映画を見ているわけではないが、「雨に唄えば」の主人公の友人コズモの一人コメディ演技(ソファの上で人形と踊ったり)のオマージュシーンがあったのにはとても感動した。

そしてこの映画でとても印象に残っているのが、やっぱり主人公と自閉症の女の子ジルミルの心を通わせていく旅のシーン。喋れない主人公はもちろんのこと、ジルミルも自閉症のためうまくしゃべれない。そのためこのシーンはほとんどセリフどころか、「言葉」そのものがなく進んでいく。だけど二人の演技が素晴らしいため、シーンが終わってからそのことに気づいたほど。心地よい音楽とともに描かれるそのシーンは「言葉のないミュージカル映画」といえるもので、不思議で圧巻の一言だった。

対照的な二人の女性とその恋愛を基点とした、人生の生き方、というのもとても考えさせられた。最初の恋人と言えるシュルティが途中後悔するように語った、「言葉は交わしても、心は全く通わなかった」という言葉がすごく印象的であり、うまくしゃべることができないジルミルが「言葉」を使わず「仕草や心」でコミュニケーションをとっていくシーンと合間って、現代の「言葉」に頼ったコミュニケーションを省みるきっかけになると思う。
「言葉にしなきゃわからない」という恋愛観ももちろんあるが、それ自体が相手と「心」をかわそうとしていない証拠じゃないか。「言葉にしなくてもわかる」じゃなく「言葉にしなくても、言葉にできなくてもわかってあげる」というコミュニケーションの重要さを、互いに「言葉」を使わず心を通わす二人を見て再確認させてもらった気がする。

インド映画、と聞くと歌って踊って盛りだくさんエンターテイメント、といった印象が多いけど、本作はその盛りだくさんの要素を映画のオマージュ、人生における生き方の表現に注力したといった映画。恋愛も二人分織り交ぜたりしてるので少しごちゃついてると感じるかもしれないけど、映画への愛を感じながらとても重要なことを温かい話で気づかせてくれる、とても不思議な良作だと思います。
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