「かもめ食堂」のようなほっこりとした映画として始まりながら、徐々にざらついた空気が混じり出す。
その正体は何か。実は、この映画で服は、強権性の象徴でもあります。それを示すシーンが幾つかあります。
①室内を埋め尽くすマネキン人形
女子学生が触ろうとすると、年長者に禁止される。制服のように、"服"を着せるということの支配性を暗示している。
②夜会
みなみ洋服店の関係者の会。女子学生が自分たちも参加したいと言うが、禁止される。年少者は参加できないことになっている。
そうして、おじいちゃんのために作られたスーツを、皆で見ている。
他にも印象的なシーンがあります。
③ミシン
肌色の布を、針が突き刺し、赤い糸を引き抜く。まるで、肌に針を突き刺し、赤い血が噴き出しているかのよう。"服"を仕立てるということの、暴力性を暗示している。
④妹のウェディングドレス
喜ばしいはずだが、兄の藤井の表情は硬い。みなみ洋服店が、過去の記憶を利用し、結婚の準備まですることへのとまどいとおそれが現れている。
⑤若者 藤井に言われたことに対する抗議を、伊武雅刀64才に対して訴える。一見すると筋違いだが、涙混じりの訴えは切実。
⑥「おじいちゃん」。女子学生たちが言う。彼女らに向かって、「私に服を作らせて下さい」、主人公が涙混じりに言う。
若い世代による、若い世代のための"服"。そんな世界を見てみたい。