ちろる

毛皮のヴィーナスのちろるのレビュー・感想・評価

毛皮のヴィーナス(2013年製作の映画)
3.8
小さな劇場でたった2人だけで繰り広げられる劇中劇。
遅刻してきたくせにオーデイションをするようにせがむ、下品な風貌の舞台女優ワンダと全く乗り気がしない脚本家のトマ。
特にセクシャルなシーンは出てこないSM哲学的な会話劇。
主導権がどんどんと変化していく様子が劇中劇として展開されるという非常にユニークなプロットでひと時も目が離せない。
ワンダは全て開けっぴろげに話しているようでも実は何者なのか、なんの目的なのか一番の謎の部分はベールに隠されたまま、演技の凄みだけでトマを精神を取り込んでしまう。

たった2人だけ、しかも小劇場の舞台のみなのに作品に地味さは全く感じられず、アクの強い2人の掛け合いだけで重厚感のある作品に仕上がるのはエマニェル セニエの圧倒的な演技力とロマン ポランスキーの映像美のおかげなのか?
ただ単純に主従関係と主導権が変化するという話はよくあるのだけど、心理的にじわじわと相手を陥れていくサスペンス風味と、そういう事になっていくのかぁーというSM哲学の奥深さを学んだようなラストは個人的には満足。

舞台の下の2人の関係と舞台に上がった瞬間トマがワンダの手中に捕われてしまう空気感を2人だけの会話、目線、表情や仕草だけで表現する繊細さと時々鳴る携帯電話が鳴り響くタイミングまで計算し尽くされて流石だなと観終わってからしみじみと実感する。
面白いかどうかはわからないけど、なんとも言えない凄みを感じる独特な作品でした。
ちろる

ちろる