Jun潤

悼む人のJun潤のレビュー・感想・評価

悼む人(2015年製作の映画)
3.7
2021.04.28

高良健吾×堤幸彦案件。
天童荒太原作のベストセラー小説を映像化した作品。
発売当時、表紙の顔がなんだか不気味で、それで作品自体の印象は強かったですね…。

死者を悼むために全国を旅する静人を軸に、死生観やじ人生、人との繋がりについて紡いでいく物語。

“悼む人”こと静人を中心に彼と関わる人々とその周囲について、物語が展開されますが、共通して他人を求めること、他人を愛することが、みんなどこか歪んでいたんだろうなと思いました、いえ、ここまで来ると何を基準に歪んでいるのかもわかりませんね。
でもだからこそ、お互いに求め合い、愛し合うところまで持っていかれると感動的でしたし、そんな物語だからこそ、愛し合えるという現実からは程遠く、愛なく死んでいった息子を悼み続ける沼田夫妻のエピソードが浮き彫りになって突き刺さってきます。

今作ではさまざまな登場人物が死と生についての考えを持ち、見る人の受け取り方によってメッセージはいろいろあるだろうなと思いましたが、個人的に今作では、序盤にあった
「死ぬために生きる」
が、今作の肝だったんじゃないかなと感じました。

終盤で倖世は静人に愛されるため、彼の中で生き続けるために自ら命を絶とうとします。まさに「生きるために死ぬ」
「死ぬために生きる」と「生きるために死ぬ」、正反対の言葉に見えて実はとても近い言葉な気がします。

倖世のように死ぬことで誰かの中に生きようとするのではなく、静人の母のように自分が死んだ後、誰かに悼んでもらえるよう、そうして死ねるように生きること、なんじゃないかと感じました。

それは静人の母が永眠するその日に、静人の妹は子供を産み、静人の父が死んだ海でその赤ん坊を抱く夢を母が見る、その場面からも感じられました。

普段の生活ではなかなか考えない死生観について、物語を伴ってここまで語りかけてきて、考えさせてきたのは役者さん方の演技とそれを引き出す監督の手腕が為せる技でしょうね。

倖世に殺された(殺させた)夫の甲水を演じた井浦新。
MVのような登場の仕方にちょっと吹き出しそうになりましたが存在感は不気味そのもの。
彼の異常ともとれる死生観は今作の井浦新の雰囲気にハマっていました。

椎名桔平が演じた蒔野は、今作中で明確に自身の考えが変わる人物のうちの1人。
序盤の悪態やゲスっぷりを見せられても、終盤で静人と家族を繋ぐ役目までヘイトを溜めさせないのは椎名桔平の持つ憎めない雰囲気のおかげでしょう。

そして作品全体を包み込むような、静人を演じた高良健吾。
他人の死を悼むという、一見誰よりも強い心を持っていそうなものの、その行為に悩み続け、他人を顧みず、けれど誰よりも他人を求める、そんな絶妙な弱さを醸し出していました。
Jun潤

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