Satoshi

わたしたちに許された特別な時間の終わりのSatoshiのレビュー・感想・評価

5.0
あまりにも生々しい音楽で食ってくことへの戦いで、
これからこの人が死んでしまうということが、観ててすごく辛かった。
映画自体は自殺や死者を感傷的に描いてるようには感じなかった。自殺への率直な疑問や戸惑いや葛藤みたいなものが、撮る側からもありのまま発せられてるような気がした。

増田さんが、蔵人さんとのスカイプの中で、今にも死にそうですよ。何でそうなるんですか。仕事が原因でしょう、音楽を辞めるからでしょうと問われて、違うよ。音楽をやるほどこうなるんだよ。と返すシーンがあって、そこが凄く突き刺さった。

肉体の寿命とは別に生きる力みたいなものがあって、それを使い切ってしまったのかなと思った。
止められる力が私には無かったと母親が語るけど、そうなったらどうしようも無いよな。と思った。

僕もそんな絶望が何度もあったなと思った。
自分の劇団で最初に東京でやった時、客は知り合いの3人しか入らず駅前で配ったチラシはほとんどがその先の角で捨てられまくってた。あの時笑うしか無かったし、死ぬほど恥ずかしかった。自分で自分を笑うのは、凄く生きる力を削ぐよなあ。
とあの頃の気持ちが蘇って、涙が出た。

映画は死と新しい生で終わっていく。パンフレットの今日マチ子さんの漫画良かった。
なにより、映画の終わりに監督と蔵人さんが出てきて簡単な挨拶をしたことが、映画の中と現実を結んだように思った。
ちゃんと実在している話だと実感したような。
パンフレットを買って、サインを貰って蔵人さんと握手をしたとき、分厚い手が生きてるって感じがした。映画を観たからなおさらそう思った。
結局は生きている人が色々語って色々作り続ける。
この映画は自殺を中心に置きながら、完成させて上映して観客に見せて、生きている人の生き続ける姿勢のようなものを提示してる。
そんな風に思った。
Satoshi

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