arch

Mommy/マミーのarchのレビュー・感想・評価

Mommy/マミー(2014年製作の映画)
4.5
グザヴィエ・ドラン作品は常に家族愛や恋人との愛を取り扱い、その愛の美醜を高解像度で映し出すことに長けた監督です。

今作はADHDの少年とその母親の関係を描いています。多くの点で彼の処女作「マイマザー」と重なる部分がある。
例えば、シングルマザーである環境。父の不在がもたらす母への過度な愛、依存して2人だけの世界が構築されてしまった状態から物語は始まります。
しかし、今作が「マイマザー」と異なる点にこそ、今作の魅力があります。例えば今作のスティーヴはグザヴィエ・ドラン作品に珍しく、LGBTの男の子ではありません。その代わり、彼はADHDと多動性障害という問題を抱えています。
突然、カッとなり暴力を奮ってしまう。そんな彼ですが、それ故に彼の言葉に嘘はなく監督作品史上最もピュアで幼い少年像でした。
その母、ダイアンデュプレは彼を愛しているが、元々の奔放な性格を押さえ込み、2人で生きていく道を模索しています。いわゆるダメ親として描かれています。
この作品のカナダでは、母は障害を持つ子供を法的な手続き無しで施設に預けることが出来ます。
だからこそ、母は常に施設に預ける可能性の中で生活をしています。
そんな2人の中に1人の女性が入ってきます。隣人のカイラ。彼女の存在が彼らを変えていくのです。人は1人では変われない。人との出会いが人を変える。良くも悪くもですが。だから3人はどんどん良い方に向かっていきます。
ここで今作の素晴らしさの一つである画面比が効いてきます。従来のビスタサイズやシネスコープではなく、正方形の画面比。それは背景の占める割合を限りなく狭くし、自分の表情に集中させます。また、2人だけの狭い世界の暗喩になっています。監督自身もその画面比によって彼らの登場人物達への生への没入を可能にしていると語っています。
そしてのその画面が中盤、スティーヴの手によってこじ開けられます。オアシスの「Wonder wall」と共に開かれ、それは開放感や自由、特に未来への希望を見事に観客と共有させます。
この画面比が広がる手法、2箇所で見られますがどちらも彼らの希望を映し出している所です。
スティーブが大学を出て、結婚する。そんな未来を思い描く。まぁそのスティーヴの顔が違うのが悲しくもありますが。

施設の人は「1度回復してもまた悪化する」と言います。しかし、彼らは2人で立ち向かい、その希望の未来を諦めません。
この物語は彼らが問題を前にしても最後まで未来への希望を諦めない。そんな物語です。
arch

arch