andy

365日のシンプルライフのandyのネタバレレビュー・内容・結末

365日のシンプルライフ(2013年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


 ヘルシンキの26歳ペトリが主人公のドキュメントです。
 自らを題材に、リセットして自分の所有物を全部倉庫に保管して、1日1品戻してくるという企画です。
 この発想がとてもユニークで気に入ってしまいました。最初に素っ裸でスタートするところが徹底していました。

 ここまでのリセットは無理ですが、リセットする事自体、大切なことなんだと思いました。そして、小さなリセットは意外と素敵なことかもしれないと思いました。
ペトリはモノのない「シンプルライフ」のおかげで、本当に必要なものか否か、しっかりと考えるようになりました。
 また、新しいものが買えないので、あるモノの中や、他力で問題位を解決しないといけません。創意・工夫を凝らして奮闘する姿は凛々しく見えました。

 この企画のきっかけはペトリが彼女にフラれたのがきっかけで、クレジットカードで買い物を繰り返し、部屋はものでいっぱいになります。しかし、3年が経って26歳になって自分がモノを持ち過ぎているが故に大事なことを見失っているのでは?と考えるに至りました。
 確かに、彼の一人暮らしの部屋はゴチャゴチャとはしていましたが、そんなに酷いかなぁ?と思いました。逆に自分自身が持ち過ぎているのかも知れません。

 ありきたりですが、モノは彼の心の投影です。作中ではあまり触れていませんが、ペトリが彼女にフラれた事は、彼の中では非常にショッキングな出来事だったと思います。故に、その事と正面から向き合うことができなかった、その代償行為として大量の買い物につながったのだと思います。これは誰にでもあることで、やけ食い、やけ酒の類だと思います。フラれた自分と向き合うことはキツイ事です。
 
 ペトリは26歳になって、今回の企画を始めます。何も無くなった彼の部屋は、彼女にフラれた時の彼の心象風景そのものではないでしょうか。彼は自分と向き合うために、3年を要したと思います。傷心を癒す為に相応しい期間が3年でした。やっと自分と向き合うスタートラインに立てたのです。
 いっぱいあったモノは彼の心の中の未消化の問題でした。1日1個だけものを持ち帰ってくる作業は、モノは増えますが、未消化の問題を一つずつ消化していく作業のようにも思えました。
 故に、この作品にはもう一つのドキュメンタリーとして、ペトリの失恋からそこに向き合っていくプロセスがあると思いました。

 モノとの向き合い方についても考えさせられました。本当に必要なモノを大事に扱っていく。そうすれば自然と愛着が湧いてきます。そうなると不必要にモノを買うことは控えられます。
 人との付き合い方も似ているのではないでしょうか。知り合った頃は相手に愛着も何もありませんが、時間をかけて丁寧に付き合っていく中で、互いに大切な存在になっていきます。

 ペトリはシンプルライフ実験中に、新しい彼女と出会います。彼女との付き合い方を見る中で、以前の彼女との付き合い方が想像できます。今とは正反対の付き合い方をしていたのではないかと。
 
 ペトリはもう一つ気づいたことがあると思います。彼女がいようがいまいが変わらないことに。祖母や弟、母の支え。親友達の応援。彼が今回のドキュメンタリー撮影には彼、彼女の支え無しにはなし得ませんでした。彼がモノより大切なことを見つけたとすれば、そのことだと思います。祖母の「モノは小道具に過ぎない」という言葉が響きました。

 少し羨ましく持ったことは、時間の流れがゆったりしていると思いました。映画製作ではありますが、彼に協力している人々を見ていると何かあるような印象を持ちました。
 ペトリが要した時間も、余裕があるからこそ持ち得た時間では無かったでしょうか。日本とフィンランドの時間の流れの違いが印象的でした。
andy

andy