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フレンチアルプスで起きたことのambiorixのレビュー・感想・評価

4.0
エリートビジネスパーソンの夫に、べっぴんの嫁さんに、娘と息子。一見したところ完全無欠な理想の家族が、突如起こった雪崩によって引き裂かれてゆく…って、こう書くとパニック映画っぽいんだけど、ジャンルはコメディです。ただし、登場人物がギャグを言って笑わせたり、奇抜なシチュエーションで笑いをとりにくるタイプのそれではないんですね。気まずすぎて気まずすぎて居た堪れなくなってにっちもさっちもいかなくなって観客の側はもう「笑っちゃう」以外にこの場をやり過ごす手立てがない、みたいな感じ。ホテルの廊下でわんわん泣きわめく夫に奥さんが「泣いてないよね」と言い放つ終盤のくだりだけは普通に爆笑したけど…。
監督はスウェーデンのリューベン・オストルンド。これに続く次作『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でカンヌのパルムドールを取りました。パーティ会場に猿人間が乱入して狼藉の限りを尽くすあの有名なシークエンスやなんかには本作と通底するところがあるかもしれない。どちらからも、小池に石を投げ込んで、起こった波紋を延々と眺めながらニタニタしてるような、なんとも知れん底意地の悪さを感じる。でもってその底意地悪さはラストシーンに最高の形で炸裂、あれだけねちっこく執拗に夫を責め続けてきた妻がまさかあんな行動に出るとは(笑)。お前も逃げてんじゃねーか!
「危機のさなかに自分ひとりで逃げ出してしまった人間を許せるか?」という、SNSでちょびっとだけ議論を巻き起こしては一瞬で鎮火しそうな小ネタを長編映画の尺にまで膨らませつつ一級のシュールコメディに仕上げ、最後の最後に満点解答を叩き出してみせるこの監督、やっぱりモノスゴイ才能やと思います。
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