MasaichiYaguchi

ブラック・スキャンダルのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ブラック・スキャンダル(2015年製作の映画)
3.3
「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるが、アメリカのサウスボストンを舞台に展開されるクライム・サスペンスでは、、犯罪を取り締まる側とされる側、FBI、政治家、ギャングという敵対関係の3者が結託し、お互いを利用して伸し上がろうとするピカレスクロマンが繰り広げられていく。
多民族国家であるアメリカは、同じ民族が一つに集まってコミュニティーを作るが、この作品で登場するのはアイルランド人のコミュニティー。
本作でコミュニティーの核となるのは、ボストンの裏社会に君臨したギャングのボス、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー、その弟で有力政治家のビリー・バルジャー、この兄弟の幼馴染でFBI捜査官ジョン・コノリーという3人のアイリッシュ。
映画はバルジャーの半生を描く形で、1970年代から近年に至るまでのアメリカ犯罪史上最大のスキャンダルを暴いていく。
このバルジャーを演じているのが、“カメレオン俳優”と呼ばれるジョニー・デップなのだが、外見だけでなく、今まで見たことが無いような彼に御目にかかることになる。
そしてこの主役の脇を固めるのが、弟ビリー役のベネディクト・カンバーバッチと、幼馴染のコノリー役のジョエル・エドガートンという演技派の2人。
この3人が、同民族で同じ土地に生まれ育った彼らの絆をドラマチックに表現していく。
普通“絆”という言葉は良い意味で用いられることが多いと思うが、彼らの絆は血の結束や掟で縁取られていて、それが長きに亘る悪の温床になっていく。
人は何故悪に惹きつけられるのか?
シャルル・ボードレールの詩集「悪の華」で描かれたような反社会的、反道徳的な「悪」に人はカッコ良さを見出してしまうからではないかと、本作を観て改めて思った。