MasaichiYaguchi

チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.4
人は熱に浮かされると理性を失ってしまう。
世界最古の経済バブルと呼ばれる17世紀の「チューリップバブル」のアムステルダムを舞台に繰り広げられる物語では、チューリップ市場への投資や道ならぬ恋に狂奔する人々の〝一炊の夢〟を描く。
この「チューリップバブル」は、植物学者カルロス・クルシウスが希少植物だったチューリップの球根をオランダに持ち込み、貴族や大商人に譲って富裕層に広まり、最高級の「無窮の皇帝」をはじめとして「富の象徴」として高値で取引されたことから始まる。
更にその頃のオランダは独立戦争も落ち着き、オランダ織物をはじめとした貿易が盛んで景気が良く、職人や労働者は賃金が上がってそれなりのお金を所持していた。
そこに降って湧いたチューリップ市場への投資が富裕層から一般市民レベルにまで広がっていく。
本作はこのような金欲・物欲塗れの時代を背景に人の〝業〟を炙り出すように物語が展開していく。
ヒロインのソフィアは孤児として修道院に拾われ、成人して香辛料の貿易を営む豪商コルネリス・サンツフォールトに嫁として買われる。
買われた身で愛は無いとしても、豊かで安定した日々を過ごしていたソフィアだったが、夫が肖像画を描かせるために無名の若き画家ヤンを雇ったことから運命が急転する。
人は夢中になると周りが見えなくなる。
ソフィアやヤンは恋に、そして一獲千金を夢みる人々はチューリップの球根に夢中になって、理性的に考えれば無理なこと、破綻することが目に見えることに血道を上げていく。
その末路は破滅しかないように思えるが、果たして本作の結末は?
一つの〝教訓話〟と考えるならば、意地悪く辛辣で後味が悪くても良かったような気がするが、修道院から始まり、修道院で終わった本作なので、最後は〝神のお情け〟なのかもしれない。