モスマンは実在する

岸辺の旅のモスマンは実在するのネタバレレビュー・内容・結末

岸辺の旅(2015年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

まず浅野忠信出現シーンの時点で本作の格の高さを思い知らされた。深津絵里が白玉を作るなかカメラは左へ寄っていき、左側にぽっかりと黒い空間ができる。まるで深津絵里の心の隙間を表しているかのようである。その黒い隙間から浅野忠信が出現する。最初は浅野忠信は暗がりにいるため光が当たらず足がないように見える...。

死んでいる人と生きている人は様々なかたちで関わることがある。その例がいくらか示されながら夫婦の旅が進行していく。劇中では幽霊という言葉は使われない。死んでいる人も見世物のような存在ではなく「ただ死んでいるだけ」の存在として、人と人の自然な関わり方としてそれぞれの交流が描かれる。それでも、むこう側の世界はこちら側の人の感性としては怖いぞと突きつけてくるのがなおさら面白い。ほのぼのとした日常も描かれるなか、ふとした瞬間にむこう側の世界と繋がる恐怖が描かれる。その温度差が激しく非常に心臓に悪い。特に新聞配達員の老人シマカゲさんのくだりが恐ろしい。浅野忠信がシマカゲさんの死に方を夢でみたと語った後、夢の回想ではなく同じ流れの映像上でシマカゲさんの死に方が明らかにされそうな雰囲気になる。が、結局どうやって死んだのかは明かされない。シマカゲさんは歩いて寝室へ行くのみ。後に描かれるシマカゲさんの寝室はシマカゲさんの未練が積もり積もった象徴として切り抜いた花の写真が一面に貼られている。その壁がぼうっと明るくなる(部屋の暗がりに三面鏡があるので、それに何かが映るのかと思いきやそうではない)。そうして不穏になったりならなかったりしているうちにシマカゲさんは消えてしまう。恐らく、こちら側へ繋ぎとめていた心のわだかまりが解消されたのだろう。残されたのは荒れた廃屋のみで、シマカゲさんの思念が家をかつてのように見せていたことが分かる。